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監査人の独立性と経営者の利益調整行動との関係についての研究

会計情報学科 准教授 笠井 直樹
 研究成果の一部について2013年3月18・19日にオーストラリア連邦ケアンズ市において開催された国際学会International Conference on Business, Economics, and Information Technology 2013にて研究報告を行った。同学会で報告を行った主たる研究内容は以下のとおりである。
 今回の研究では主に監査業務担当パートナーの継続監査年数および監査報酬が,経営者による利益調整行動に及ぼす影響を調査した。近年,利益調整行動を測定する指標は財務諸表監査の品質を代理する指標としても多くの先行研究で用いられており,本研究においても当該指標を財務諸表監査の品質を代理する指標として用いることにする。具体的には,Accounting Accrualsを利用した経営者による会計的裁量行動を測定する指標を用い,これと監査業務担当パートナーの継続監査年数および監査報酬との関係を検証した。
 まず第1に明らかとなったのは,わが国においては監査業務担当パートナーの継続年数と財務諸表監査の品質を代理する指標との間に負の関係が存在するということである。つまり,同一監査人による継続監査年数が7年を超えるほど長い場合,財務諸表監査の品質が改善するという関係が明らかとなったのである。この結果は多くの先行研究とも一致するものであり,監査人は同一クライアント企業に対して継続的に監査を行うことによって,クライアント企業 の事業内容や業界動向についての理解を深め,より効率的で効果的な監査を実施しているという関係性を示すものである。したがって,現行の規制が想定しているような継続年数が長くなることによる弊害よりも,むしろ監査人の学習効果によるベネフィットの方が影響が大きいことを示しているのである。
 また,監査報酬と財務諸表監査の品質との関係が,継続年数(7年を超える場合)を考慮した場合にどのように変化するのかを検証した。分析の結果,継続年数が7年を超える場合,監査報酬の規模が大きいほど財務諸表監査の品質が改善する傾向にあることが明らかとなった。これは,監査報酬と継続年数(7年を超える場合)といった複数の要因を同時に考慮することで,現行の会計・監査実務を解明するための新たな証拠を提示できる可能性を示している。このような観点から分析を行った研究は国際的にも限られていることから,本分析は国際的に進展している監査研究に資するものである。
 以上が主に国際学会で報告した研究内容であるが,これ以外にも現在,監査法人間の競争状況が財務諸表監査の品質に及ぼす影響についても分析を進めているところである。当該分析に今回の学会報告で扱った研究内容を統合することで,新たな知見を得ることができると予想される。今後はこれらの研究をさらに進展させることに注力したい。また,今回の学会報告では,オーディエンスから日本企業のコーポレート・ガバナンスの特徴をコントロールする必要性を指摘されたので,こうした要因もあわせて分析に加え,分析結果の精緻化を進め,国際ジャーナルへの掲載を目指して準備を進めていきたい。


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