経済学部

TOP研究と社会連携経済学部研究情報滋賀大学経済学部学術後援基金助成による研究成果滋賀大学経済学部学術後援基金助成による研究成果H24 ≫ 東北地方の歴史文化財の被災状況と修復・保全に関する現地調査

東北地方の歴史文化財の被災状況と修復・保全に関する現地調査

社会システム学科 教授 青柳周一

本研究による成果の概要は、以下(1)~(4)の通りである。

(1)山形県米沢市へ出張して、山形文化遺産防災ネットワーク(山形ネット)が行っている被災歴史文化財のクリーニング活動に参加した(場所:山形県立米沢女子短期大学)。山形県は東北地方の中で比較的震災による被害が少なかったため、山形ネットがNPO法人宮城歴史資料保全ネットワーク(宮城資料ネット)などと連携して、宮城県・岩手県などで被災した歴史文化財を県下の大学に運搬し、応急処置 を施すといった事業が実施されている。作業は山形ネットのメンバーである米沢女子短期大学の教員による指導のもと、学生や地元社会人などがボランティア形式で参加して行われていた。被災した文化財を保全するためには広域な協力体制の構築が必要であることを確認するとともに、米沢女子短期大学ほか山形県下の大学での上記の活動は、地方大学による優れた地域貢献・地域連携としての意義を有するとの認識を得た。なお今回クリーニングしたのは、津波による による浸水被害を受けた近代以降の書籍資料であり、付着した泥やカビの歴史資料の保全技術についても学んだ。

(2)栃木県芳賀郡茂木町に出張して、近世に同町域に進出した旧近江商人で酒造業者のS家(個人情報につき伏せ字)の所蔵史料の保全活動に参加した。これは、同家が東日本大震災を契機に近世以来の商売を止め、建物(蔵にある史料・民俗資料も含む)と敷地を町に売却することになったため、茨城文化財・歴史資料救済・保全ネットワーク準備会(茨城史料ネット)による同家の史料の保全が実施されることになったものである。現地で青柳が担当した作業は、かつてS家の所蔵史料調査が行われた際に作成された目録と、今回土蔵・質蔵などから搬出された史料との照合・確認である。歴史資料が収蔵されていた現場での保全活動の実際を学ぶとともに、北関東地方における旧近江商人宅に伝存する歴史資料の被災状況に関する情報を収集することができた。

(3)宮城県仙台市に出張して、NPO法人宮城歴史資料保全ネットワーク(宮城資料ネット)がボランティア形式で実施している被災歴史文化財のクリーニング活動に参加した(場所:東北大学川内キャンパス)。ここでは、宮城資料ネットのメンバーによる指導の下、津波による浸水被害を受けた史料の真水によるクリーニングや泥・カビの除去、乾燥作業などを行った。あわせて、宮城資料ネットのメンバーから宮城県内における被災文化財の救出・保全活動に関す聞き取りを行うとともに、被災地における歴史的景観や歴史地震の調査・研究状況についても教示を得た。

(4)上記の被災地現地における実際の体験と調査を踏まえて、東北以外の地域においても被災地の歴史的景観や歴史地震に関する史料の掘り起こしを積極的に進め、その成果を被災地現地へ提供・還元することが今後必要になるとの認識に達した。そこで、附属史料館所蔵の中井家文書を用いた論文「日野商人・中井源左衛門光基の旅日記についてー東北地方での商業活動と地震の記録―」を執筆し、『彦根論叢』395号(2013年3月末)に掲載した。今後は本研究による成果を踏まえて、近江商人史料を他地域の歴史的景観の復元や、歴史地震をはじめとする災害史研究に活用する方法をさらに検討したい。

研究成果一覧のページに戻る