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空間情報を活用したマクロ経済モデル分析

経済学科 准教授 得田雅章
 地価情報を明示的に取り入れたマクロ経済モデルを用いて金融政策効果の実証分析を行う予定であった。しかしながら、本学二宮教授との共同研究である研究成果掲載の2本の論文が条件付きでアクセプトされため、そちらにやや注力した研究を推進してきた。すなわち、日本および韓国における貸し手のリスクを考慮した実証分析モデルの構築と、金融政策効果の実証分析である。
 7月にまず日本のデータを用いた論文が国内のジャーナルにパブリッシュされた。その論文で得られた課題を為替制度導入という点で拡張し、今度は韓国のデータを用いた研究成果として9月の経済理論学会で報告した(共同報告)。そこで受けた批判やヒントを論文に活かし、海外のジャーナルに投稿した。1回の修正を経てアクセプトされた。H24年春号でパブリッシュされる予定である。
 若干遅れた空間情報の活用については、上記論文の編集と同時進行で進めている。ヘドニック・アプローチに基づく地価関数を活用し、全国市区毎に地価に大きな影響を与える特性をピックアップし、影響度に応じてグループ分けを行い、地価ギャップを推計する。H24年度夏までに学内の雑誌に投稿する予定である。
研究成果としてパブリッシュされたもの及びされる予定は以下の2本である。
二宮健史郎・得田雅章[2011]「構造変化と金融の不安定性」『季刊・経済理論』第48巻第2号、pp.81-95.
 本学二宮教授との共著であり、実証分析部分(後半半分)を担当した。Taylor and O'Connell[1985]等の議論をカルドア型循環モデルに導入して、「貸し手のリスク」 が経済の活動水準により変化するという観点を考慮したマクロ動学モデルを構築し、金融の不安定性、循環を検討した。「貸し手のリスク」が経済の活動水準により変化するということは、例えば、好況時には市中銀行等の貸付が増大して過剰な資金が供給され、逆に不況時には貨幣への逃避を招くということである。さらに、VAR(Vector Auto Regression)モデルを活用して経済の金融構造の変化を検討した。実証分析で明らかにしたのは以下の3点である。
  1. 確信の不安定性に関する定量化を行い、1990年代にその不安定性が極めて増大した時期があり、その程度が2000年代初頭にかけて大きなまま持続していたことを示した。
  2. サンプル期間を確信の不安定性が低位安定的だった期間(前期:1983年~1995年)と不安定化した以降の期間(後期:1995年~2010年)に分けたうえで、VARモデルに基づく分析を行った。Granger Causalityテストでは後期において、確信 の不安定性の経済に及ぼす影響が拡大したことを示した。また、インパルス反応関数からは、利子率の十分な低下を通じたルートで不安定性増大ショックを吸収し、投資や所得といった実体経済への影響を防御するといった機能が棄損しているため、不安定性が所得に影響を及ぼすという過程を確認した。
  3. VARモデルから得られたパラメータを用いて確率的シミュレーションを行い、確信の不安定性の状態が不安定化した時期以降においては、所得の減少にもかかわらず利子率の上昇圧力が働く可能性が示された。
【Forthcoming】Ninomiya,K. and M.Tokuda[2012], Structural Change and Financial Instability in an Open Economy, Korea and the World Economy, Vol. 13, No. 1 (April)
 同じく本学二宮教授との共著であり、実証分析部分(後半半分)を担当した。上記論文を開放体系に拡張し、韓国経済を対象にVARモデルを適用して実証分析を行ったものである。周知のように韓国は1990年代後半にアジアの通貨危機に襲われ、深刻な打撃を受けた。しかしながら、2007年のサブプライム問題に端を発した世界的な金融危機に対しては比較的頑健であり、相対的に好調さを維持しているように思われる。確信の不安定性という概念を導入して、金融構造の変化を固定為替相場制、変動為替相場制の動学体系で検討した。そして、安定的な金融構造と変動為替相場制が、確信の不安定性の高まりにも関わらず、経済の不安定化を回避する可能性があることを理論的、実証的に示した。
 (参考文献)
Taylor,L. and S.A.O'Connell [1985], A Minsky Crisis, Quarterly Journal of Economics 100, pp.871-885.

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