経済学部

TOP研究と社会連携経済学部研究情報滋賀大学経済学部学術後援基金助成による研究成果滋賀大学経済学部学術後援基金助成による研究成果H23 ≫ 日本のマクロ経済的特徴と財政・金融政策の効果

日本のマクロ経済的特徴と財政・金融政策の効果

経済学科 教授 鈴木 康夫
 当該研究では、基本的に、日本の現代的な経済的特徴を、文献や資料の調査を交えて、明らかにした。この基礎的な考察に基づき、第一に、それらの特徴的な諸要素を備えた現代日本型の開放マクロ経済モデルを構築した。しかも、第二に、こうした日本型マクロ経済がどのような性質を持つかをその理論モデルから分析した。特に、その動学的安定性について分析が行われた。
 第三に、そうした日本型開放マクロ経済で、マクロ経済政策がどのような政策的効果を持つかを分析した。いくつかの場合について理論的な結果を導き、さらに、第四に、動学的安定性に関する現実的な特性についてのマクロ経済政策の含意も限定的な場合で導出できた。最後に、付加的な研究内容として、近年のデータを用いて簡易な例示的な数値計算を試みるために、先に導出した理論的諸結果の数値分析を準備検討したが、本格的な考察には至らなかった。
 なお、当該研究の途上で東日本大震災の影響を考慮して調査や情報収集の準備を延期かつ限定し、可能な準備とともに重点的な理論考察に研究の比重をいっそう移したため、数値分析が遅れ、この考察が実質的に展開できなかった。
 このため、主な研究計画は実施されたが、当該研究で得られた研究成果のまとめと論文作成が遅れたので、これらの作業を延期し、今後の課題とする。
 当該研究では、基本的に、先進国としての日本の現代的なマクロ経済的特徴を、対外直接投資と高賃金率に注目しながら文献や資料の調査を交えて、部分的にはそのミクロ経済的な要素も考慮して明らかにした。この基礎的な考察に基づき、第一に、それらの特徴的な諸要素を備えた現代日本型開放マクロ経済モデルを、短期的変動局面モデルと長期的な開放マクロ経済成長モデル等のいくつかの形で構築した。これら3つのいずれのモデルも微分方程式を用いているが、前者はハンセン‐サミュエルソン型景気変動モデルを拡張したもの1つであり、その後者は、ケインジアンのハロッド‐ドーマー型モデルの拡張と新古典派型経済成長モデルの拡張の2つを構築している。
 それら3つのいずれのモデルについても、動学的均衡点の存在と一意性が、諸パラメータについての無理のない想定とともに理論分析で確認されている。また、いずれのモデルの動学的均衡点についても、主な諸パラメータについて比較静学分析が行われ、これらの得られた諸結果についてマクロ経済政策的側面も含めて考察されている。
 しかしながら、それらの3つのモデルの動学的安定性は異なる。当該の短期的モデルは、この動学的均衡点が鞍点となる可能性が高く、動学的に不安定と結論付けられる。それゆえ、この場合の比較静学的なマクロ経済政策分析はモデルの運行からすればあまり意味がない。 
 当該の長期的経済成長モデルの動学的分析では、ケインジアン的拡張モデルについては、マクロ的に失業給付も考慮されているけれども、その動学的均衡点が局所的に不安定となる可能性が高く、また、その閉軌道の可能性が低いので、このモデル経済は動学的に全く不安定と結論付けられる。ただし、失業給付率が十分に高く、かつ、対外直接投資がある程度反応的または敏感ならば、このモデルは局所的に、漸近的に安定となるので、モデル経済の動学的安定が得られる。したがって、この場合には、比較静学的なマクロ経済政策分析がモデルの運行上で意味がある。
 他方、新古典派型の拡張モデルの場合は、その動学的均衡点が局所的に漸近的に安定となる可能性が高く、また、その閉軌道の可能性が低いので、このモデル経済は動学的に安定と結論付けられる。また、対外直接投資がある程度反応的または敏感ならば、この拡張モデルの大域的な動学的安定の可能性も十分にあり得ることも分析で明らかにされている。したがって、この場合には、比較静学的なマクロ経済政策分析がモデルの運行上で意味がある。
 さらに、新古典派型の拡張モデルの場合に、このモデルの動学的局所安定の程度を強化するための十分なマクロ経済政策の可能性についての考察も展開され、そのために、対外直接投資課税などのマクロ経済政策が効果的な場合が存在するといった分析結果も得られている。(なお、数値分析は付加的な研究に過ぎないので、準備検討の段階で終わったため、これによる研究成果は得られていない。)

研究成果一覧のページに戻る