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地方自治体の財務情報開示に関する研究

会計情報学科 准教授 山田康裕
 本研究は,各自治体がいかなる目的でもって財務諸表の報告をおこなっているのか,その目的に照らした場合,現在公表されているバランスシートや行政コスト計算書は適したものであるのかといった点について,自治体の担当者に直接インタビューをおこなうことによって,わが国の自治体による財務報告の実態を明らかにすることを目的としたものである。
 本研究の実施方法は,大きく2つに大別できる。すなわち,既に公表された論文や書籍を渉猟し,現在の公会計に関する問題点についての仮説を構築すること,および,かかる事前の研究によって得られた知見(仮説)を実際に自治体の担当者にインタビューを行うことによって実証していくことの2点である。
 本研究では上述の2つの方法を事前には想定していたが,実際に現在の公会計に関わる文献に当たって行くうちに問題領域の広さを痛感した。そこで,中途半端に上記の2点を遂行することを避けるために,仮説の実証部分については本研究においては断念することとし,前半の仮説の構築に専念することとした。
 筆者はかつて,「公会計における財務報告の目的とその問題点」(『会計検査研究』32号,2005年,23-32頁)という論考を公表し,地方自治体による財務報告の目的と会計情報の機能との関係について考察した。その後も,地方自治体による財務報告の整備が進められ,現状においては,総務省モデル,総務省改訂モデル,東京都方式の3つが代表的な会計モデルとして考えられている。もっとも,3方式の間には互換性がなく,また,前者2つは完全な発生主義・複式簿記にはなっておらず,さらには国際公会計基準との差異があるなどの批判に晒されており,モデルの統一とともに改善が求められている。このようななか,東京都に次いで大阪府も東京都方式の採用に向けて動きだしたことが注目されている。
 しかしながら,このような実務レベルでの動きのみならず,制度設計を行うには,理論的観点からの考察も不可避であると思われる。というのも,筆者がかつて「地方自治体における企業会計手法への期待」(『産業経理』68巻第2号,2008年,75-83頁)において明らかにしたように,地方自治体における会計制度改革は,地方自治体の財政再建への積極的な姿勢を宣伝するため,換言すれば他の自治体と比べて財政再建をおざなりにしていないことを示すエクスキューズのために利用されてい ると解釈できる節があるからである。
 そこで本研究では,2つの会計情報の機能,すなわち意思決定試験機能と契約支援機能のうち,拙稿「公会計における財務報告の目的とその問題点」で明らかにできなかった契約支援機能を重視した財務報告モデルの考察を行おうと当初は試みた。しかし,両機能の視点に基づいた公会計の論考は皆無に等しいことが明らかとなり,さりとて,公会計に限定しない場合には膨大な先行研究が存在しているという現実に直面し,その膨大な先行研究を渉猟していくなかで,めぐり会ったのがKanodia(2007)Accounting Disclosure and Real Effects, now Publishersである。Kanodia(2007)は,企業の生産・投資政策の選択と,資本市場におおける価格づけという2つの観点を統合し,会計ディスクロージャーの「実質的な影響の観点」から財務報告のあり方を検討したものである。
 かかるKanodia(2007)の分析は,地方自治体における行政と,公債市場における価格づけという2つの視点を統合しうるものであると考えられるのである。

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