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「東アジア共同体構想」に関する研究

ファイナンス学科 教授 有馬敏則
【研究概要】
世界は大欧州(EU)、NAFTA,(北米自由貿易連合)、南米諸国連合等々地域ブロック化の傾向を強めている。本研究は、このような世界的リージョナリズム台頭の中での「東アジア共同体構想」の問題点と実現可能性について、理論的・実証的研究を行った。そして「最適通貨圏」の観点から、実現可能な、あるべき「東アジア共同体構想」についての政策提言を行おうとするものである。
【実施方法】
この研究目的のため、以下の項目について、実務家や大学教員、専門家との討議と行いながら実施・検討した。
  1. 東アジア共同体に関する先行研究のサーベイを行うために、国立国会図書館、九州大学図書館、長崎大学図書館、大分大学図書館等々において、文献や資料を収集した。
  2. 鳩山首相提唱の「東アジア共同体構想」の関連資料の収集と問題点について検討した。
  3. 現在検討されている「アジア通貨単位(Asian Currency Unit, ACU)」の概要と問題点について検討した。
  4. 「最適通貨圏」の理論的検討と、その実際の応用と言われる[EU(欧州連合(European Union)と共通通貨ユーロ)の現状と問題点についての検討を行った。
  5. 「環太平洋戦略的経済連携協定(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement,TPP)」と東アジア共同体構想の相関関係に関す る検討を行った。
今回の研究成果は、本年9月、刊行予定の『滋賀大学経済学部研究叢書』に『不確実性下の内外金融経済のリスク管理』のタイトルで公表予定である。
 本研究成果の相当部分は、「第7章 東アジア共同体構想とTPPのリスク管理」の予定である。
本研究により、以下の研究成果を上げることが出来た。
  1. 東アジア共同体構想には、緩やかな経済的統合と、共通通貨発行を目指す強固な政治経済統合までの幅がある。50年の歳月をかけて実現した共通通貨「ユーロ」を流通させたEUの現状と問題点の分析の結果、アジア共通通貨の発行は現状ではかなり困難であるとの結論に至った。 ユーロの危機の現状は、「金融政策は統合されているものの、財政政策は各国に委ねられている」ことが、大きな要因である。すなわち放漫財政のユーロ加盟諸国を多数出現したことが、通貨不安拡大の大きな要因である。通貨危機を回避するために、東アジアにおいて金融財政政策の完全な統合は、現状では不可能である。
  2. したがって緩やかな経済統合による、市場の確保と規模の経済性を目指すのが現実的である。しかしながらTPPが現状の9加盟国から、さらに加盟国が拡大し、東アジア諸国のかなりの部分が参加するようになると、東アジア共同体構想は、TPPの議論に含まれてくる可能性がある。
  3. ところが、日本におけるTPP参加の議論は,収斂するよりも拡散の方向に向かっている現状を考慮すると、構想の中核にある日本のTPP参加が早期に実現する状況には無い。
  4. このような状況を考慮すると、アジア共通通貨発行を目指すのではなく、まず東アジア諸国間の緩やかな経済統合を早急に立案すべきであろう。

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