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近代横浜の歴史認識

社会システム学科 教授 阿部安成
 「近代横浜の歴史認識」という研究テーマのもとに、2つの論点を設けた。第1が、横浜の開港五十年祭、横浜震災復興祭、開国百年祭、開港百年祭といった都市祭典をとりあげて、そこにあらわれた都市の歴史意識を研究すること、第2が、横浜でみられる「もののはじめ」という歴史記述の型を題材として、都市における記憶と歴史意識について研究すること、である。
 この2つの論点をめぐる議論を展開してゆくにあたり、サブテーマを2つ設定した。第1の論点にかかわって、佐藤政養という人物を対象として関連史料を収集し、第2の論点にかかわって、長崎にもみられる「もののはじめ」という歴史記述の型を参照することとした。
 2011年に、佐藤政養と長崎の「もののはじめ」についての稿をまとめ、滋賀大学経済学部Working Paper Seriesとして発表する予定である。
 ここでは、サブテーマとしての佐藤政養と長崎における「もののはじめ」についての調査・考察の一端を記すこととする。
 佐藤政養は現在ではほとんど知られることのない人物だったが、2010年NHK大河ドラマ「龍馬伝」に登場することにより、政養をテーマとした講演会がいくつか催されるほどとなった。これを現代における政養の小さな再評価とすると、これよりいくらか規模の大きな政養をめぐる評価が1920年代初頭の横浜でおこなわれた。そこでは、江戸湾測量をすすめ横浜開港を唱えた政養があらためて〈発見〉され、横浜の公立図書館で政養の業績展がおこなわれ、横浜開港のいわば恩人として彼の事績が顕彰されたのである。
 そののち、横浜では彼はだんだんと忘れられてゆき、いまにいたっても横浜には政養を顕彰する史跡や碑はなく、他方で、彼の郷里の山形には政養の銅像が建てられている。
 横浜における、井伊直弼、佐久間象山、岩瀬忠震にくわえ佐藤政養という人物たちの評価や顕彰の変遷をたどることにより、近代横浜の歴史意識を考える手立てが得られるとの展望を持った。
 もう1つのサブテーマである、長崎の「もののはじめ」という歴史記述の方は、横浜でみられるほどではないにしても、長崎でも、それを主題とした書籍が刊行され、それにかかわる史跡があることがわかった。
 「もののはじめ」という歴史記述の方は、横浜での初めては日本でも初となる、というもので、長崎でもそれは同様だとなれば、横浜と長崎は「もののはじめ」を競う強烈な競争相手となる。
 ただし、長崎は幕末の開港よりもさらに過去へと溯る歴史があることを誇り、他方で横浜は修好通商条約による安政の開港をみずからの歴史の始原としてきたという大きな違いがある。したがって、長崎という参照項を設定することで、「もののはじめ」という観点を素材とした歴史意識の比較をおこなえるとの展望を持った。
 長崎「もののはじめ」という附論をつけて、横浜「もののはじめ」という歴史の書き方にみられる歴史意識と記憶を軸とした議論を一書にまとめる予定である。

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