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伊藤整・左川ちか・西脇順三郎らの作品・翻訳を中心とした比較文学研究 ―1920年代以降の日本語詩にみる英語詩の影響―

社会システム学科 准教授 菊地利奈
 本研究は、これまで『研究年報』や『彦根論叢』に発表してきた伊藤整と英語文学についての比較文学研究に、2007年度日本アイルランド協会年次大会(学習院大学)にて発表した左川ちか、2008年度IASIL国際学会(オポルト大学、ポルトガル)で発表した西脇順三郎を加え、英語詩が1920年代以降の日本語詩に与えた影響について考察することを目的とした、日愛詩の比較文学的研究である。
 これまですすめてきた(1)伊藤整と英語・翻訳文学の研究をさらに深め、(2)収集した左川ちか関連資料の分析をすすめ、(3)伊藤整・左川ちかとアイルランド詩の関連についての論文を学会誌に発表し、(4)左川ちか未発表原稿と西脇順三郎作英語詩に関する資料収集・分析を引き続きおこない、比較文学的視点から研究報告をおこなう。また、(5)伊藤整と関連が深い高浜年尾を中心とした俳諧と英語圏との比較文学的考察を深める。
 上記(1)については、伊藤整に、英語詩、特にアイルランド英語詩について学ぶきっかけを与えた小林象三に注目し、伊藤整と小林象三について「小樽高商の英語教育:英語教師小林象三のこと」(2009年9月発行、小樽商科大学『緑丘アーカイブズ―小樽商科大学百年史編纂室ニュース―』10号、2-4頁)に発表した。
 (2)(3)については、伊藤整が北海道で育ったがゆえに自らがかかえる「非日本的要素」がために、自分は「日本文学の伝統」に属することはできないと失望し、西欧文学へと目覚めていったこと、左川ちかが、西欧の詩を訳しながら、異国情緒的とも評された北海道人としての要素を開花させ、「モダンな」詩を次々と発表したことなどに注目し、二人がイギリス文学の伝統から自分達同様「はみだした」アイルランドの詩人達に深く共感し影響を受けたことと、二人がかかえていた日本文学伝統からの疎外感との関係について研究をすすめている。成果は、現在執筆中の、「伊藤整と左川ちかの文学活動にみるアイルランド文学の影響」にまとめ、早ければ、今年度の日本アイルランド協会学会誌『エール』30号に、遅くとも来年度の同31号に、投稿を計画している。
 (4)については、2009年7月に開催されたIASIL国際学会(グラスゴー大学、英国)にて口頭発表「Crossing the Water to the Otherworld」が受理されていたが、医師の診断により長距離移動が不可能となったため、発表を急遽キャンセルした。ここでは、日愛の詩にあらわれる此岸と彼岸とをへだてる「海(水)」の概念について左川ちか、伊藤整、マシュー・スウィーニーなどの詩を中心に論じる予定であった。今後考察をさらに深める予定である。
 (5)については、20世紀に、日本の「俳句」が「haiku」として世界に受け入れられ、英語詩などに影響を与えるようになったことに対する日本語詩から英語詩への影響を探るため、今年度、俳句・俳諧についての資料収集につとめた。特に、伊藤整と同時期に小樽高商で学んだ高浜年尾が、父高浜虚子の後を継ぎ、俳諧を担うようになり、「haiku」の国際化について論じる俳句論に焦点を置き、20世紀の日本語詩が英語詩から受けた影響だけでなく、その逆があったことにも注目しながら、今後、比較文学、翻訳論の両視点から考察をすすめる予定である。

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