経済学部・大学院経済学研究科

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旧制官立彦根高等商業学校と東アジア

 教授 阿部 安成

 滋賀大学経済学部には、同大学史関係資料があり、そこには、彦根高商が1939年に新設した学科課程である支那科を充実させるために募った基金にかかって作成された簿冊等がある。そうした史料の活用として―― 
 第1に、同基金で購入した図書の目録(「彦根高等商業学校図書課支那関係図書目録」、以下「支那関係図書目録」とする。目録名には当時の用語を用いた)を作成した(今井綾乃作成)。これは、1940年6月時点で彦根高商図書課が所蔵する中国語図書と中国関係洋書の目録である。  
 その内容は、辞書や統計資料から、政治経済、歴史地理、社会学、文学の文献などにいたるさまざまな分野の図書群であり、発行所としては上海の図書が多く、また、欧米の大学紀要もあった。これらの図書は、現在もその多くが、滋賀大学附属図書館で所蔵されている。
 第2に、これらの図書の活用情況を探った。上記の支那科は、1941年に東亜科と改称され、同校では「東亜」の語を冠した教育研究活動が展開してゆく。その一つに「東亜研究所叢書」の編集発行があり、同叢書での参照-引用文献を調べてゆくと、それらに「支那関係図書目録」の図書が少ない、いいかえると、同叢書執筆教官は参照-引用文献として「支那関係図書目録」の図書をあまり利用していないようすがわかった。その理由としては、同叢書執筆教官は中国語図書や洋書ではなく和書を参照-引用文献としてあげているばあいが多いからといえよう(そうした和書の多くが、現在も滋賀大学附属図書館で所蔵されている)。
 また、同校の『教授要目』(現在の講義概要やシラバスにあたる冊子)に教材として載る文献をみると、授業科目である「支那語」や「研究指導」(本科、支那科)においては、「支那関係図書目録」の文献が散見され、これは、支那科を充実させるための基金で購入した図書が、上記の授業科目において活用されていたようすのあらわれだといえる。
 第3に、上記史料とはべつに、同校同窓会組織である陵水会が発行した名簿等をもとに、東亜科の第1回から第5回までの卒業生の転職をふくむ就職情況をとらえた(これら卒業生の1993年までの就職情況を一覧表にした。今井綾乃作成)。
 その概要を記すと、第1回と第2回の卒業生においては、当時の満洲や朝鮮半島にある企業や、それらの地域を商圏とする企業への就職が一定数あることがわかった。そうした企業への就職者は、当然のこと、1946年以降にはかつての「内地」にもどって、二職、三職と職を転じる傾向にあり、また、歳を経るにつれて、貿易や海外交渉の業務についたり海外勤務をしたりするものが増える傾向にあるとわかった。

 こうした研究成果をふまえて、2025年4月の時点では、以下のペーパーを発表し得るところにまで、それらの成果の一端をまとめた。
 阿部安成「資料紹介 旧制官立高等商業学校の数え方―第九高等商業学校の史料」Working Paper Series、滋賀大学経済学部、2025年4月発行予定。
 阿部安成、今井綾乃「研究ノート 旧制官立高等商業学校と東アジアについての素描―学科課程としての支那科と東亜科」『彦根論叢』第444号、滋賀大学経済学会、2025年7月発行予定(原稿提出済み)。


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