経済学部

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第4回東アジア日本研究者協議会に参加し、「近現代の日本・台湾交流史―主要な人物に焦点を当てて―」(仮)と題したパネル報告を行い、報告者の一人として参加するため

経済学科 教授 筒井 正夫

 令和元年11月1日~3日に台湾・台北の台湾大学にて開催された第4回東アジア日本研究者協議会に参加し、台中科技大学・日本研究センターが主催する以下の2つの共同パネル報告に参画した。
1.日本型企業経営・経営革新と産業発展
2.国際分業と日本企業のアジア進出

 私は、第1のパネルにおいて「世界を救う日本型企業経営の源流を尋ねてー産業革命期の富士紡績会社の事例からー」と題して報告した。現在混迷を深める世界経済の中で、企業発展と共に労使間の適切な所得配分や環境問題、都市問題の解決にも寄与した事例として、産業革命期のリーディング・カンパニーの一つである富士紡績会社の事例を紹介した。具体的には、以下のようである。
 日本産業革命を牽引した中核産業である綿絹紡織業の代表的企業の一つ富士紡績会社は、優れた専門経営者和田豊治とそれに応える技術陣のたゆまぬ努力と熱情によって創業以来10数年で業界トップクラスの地位を獲得した。綿糸紡績業では中細糸という従来大手企業が進出していなかった分野に狙いを定め、紡織と水力事業の専門技術者と経営者を揃え、最新の湿式撚糸機や豊田自動織機を取り入れ、水車動力や水力電気という自然エネルギーを活用し、単独電動小型モーター方式を採用して生産性を上昇させて競争力を高め、この分野の輸入防遏という国益追及に貢献した。
今一つの絹糸紡績においても屑繭・屑糸という廃棄物の再利用と「生精錬法」という画期的な技術革新によって品質と生産性を上げ、さらに苦心の末、経糸・緯糸双方とも紡績 絹糸からなる新織物を創出し「富士絹」として内外の需要に供した。 労務管理においても重役の報奨金を職員・職工に分配して所得の平準化に努め、最新鋭の機械で工場内の空調・温度管理を図り、病院を建設して疾病や健康管理に努め、労災や退職後の従業員保護のための保険を整え、さらに寄宿舎、社宅、託児所を整備して職員・職工の労働環境を向上させた。工女のための寄宿舎学校を建設して基礎学力と裁縫、道徳と規律を涵養し工女の精神的安定にも配慮した。また各種スポーツ・文化・教養も身に付けさせた。そして天皇への尊崇を中核に据えた国家行事を社を挙げて履行し、常に綿絹紡織事業が単に一企業の活動に止まらず、紡織業がいかに国家にとって重要な産業であるかを教え、企業活動を通じて国家に尽くす心情を培っていったのである。
 また工場進出による周辺地域の人口増に伴う小学校増築、交通インフラ整備、衛生・消防・防災・防犯対策といった都市化の諸問題についても、巨額の資金援助を行って地方行財政の運営を支援し、いち早く電灯も供給した。さらに周辺農村には工場 や寄宿舎で賄う食糧を求め、また大量の人糞尿や屑棉などを肥料として安価に供給して商業的農業の発展に寄与した。水利や洪水、防犯などを巡るトラブルの解決には、企業のトップリーダーと地域社会を束ねる名望家が協力し合って補償金の付与など双方妥結できる解決策を協定し、実際の現場での利害調節や軋轢の収束には、さらに技師などの中間管理職や耕作地主層など工場と地域社会により密着した人物たちの尽力があり、工場の拡張に符合した町村域の再編制、すなわち町村合併の円滑な進展の際にもそうした人的協力関係は不可欠な要素であった。
このように富士紡績会社は、健全な労使協調の経営を土台とし、環境・エネルギー問題にも配慮しつつたゆまぬ技術革新によって成しえた企業発展と、周辺地域の様々な都市化にともなう諸問題解決にも、企業・地域社会双方の大・小の名望家が協力して貢献してきた。それは、現代のグローバル企業の国家を超えた利益追求には邁進するが、極端な所得格差をもたらし、エネルギー・環境・都市問題等にも無頓着な事例とは異なる、模範的な企業モデルの一事例を示していると言えよう。
 他方でこのモデルは、所得格差是正、エネルギー・環境・都市問題などの諸問題解決にも熱心に貢献するが、失われた30年というように爆発的な発展力に欠け国際競争では、後塵を拝してきた昨今の日本企業と比べても学ぶ点が多い。両者の根本的な違いは、自らの企業活動と国益を結び付けて捉える意識の有無であり、日本国家の歴史と文化に誇りを持ち企業活動を通じて国家のために尽くすという健全なナショナリズムの有無の違いであるように思われる。戦後のGHQによる体制的な日本国家弱体化の洗脳政策からの脱却が急務な所以である。

 


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