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隔離のなかでの生をめぐる歴史表象
―ハンセン病療養所をフィールドとして―

社会システム学科 教授 阿部 安成

 研究目的としてかかげたハンセン病をめぐる現状の課題である、「他者が、隔離を生きたその〔療養所を生きた当事者の〕生をどう表現するかが問われている。その表現方法を、素材、手法、媒体、叙述において研究することを目的とする」ことにたいして本事業では、(1)ワークショップでのディスカッションにおける成果、(2)論稿としてまとめた成果、をあげた。

 (1)上記のとおり本事業では4回のワークショップを実施した。①国立ハンセン病資料館学芸員の金貴粉が著した『在日朝鮮人とハンセン病』(図書出版クレイン、2019年)の合評会では書名にもある在日朝鮮人を適確に位置づけるハンセン病史を構想するうえでの方法や観点を議論し、②近年の図書館を考える作品(映画『ニューヨーク公共図書館エクス・リブリス』日本公開2019年、『現代思想』特集「図書館の未来」2018年12月、など)をふまえハンセン病をめぐる療養所に残る膨大な図書をたんなる本にとどめずに、療養所を生きた療養者たちの生が籠る彼ら彼女たちの痕跡としてとりあつかうとの史料整理手法を議論し、③これまでの民衆史や民衆思想史研究におけるひとつの型としてある個人史の叙述をハンセン病史研究で参照するために、牧原憲夫『山代巴―模索の軌跡』(而立書房、2015年)を『牧原憲夫著作選集』(有志舎、2019年)も見やりながら合評し(阿部安成「後続世代からみた牧原民衆史」Working Paper Series No.2019、滋賀大学経済学部、2019年11月、もテキストとした)、 ④滋賀大学経済学部ワークショップとして「歴史における「当事者性」について」を実施し、阿部安成『大島ユリイカ―国立療養所大島青松園の歴史表象』をひとつのテキストとして、おもにハンセン病者を歴史として描く主体の政治性を議論した。
 研究成果のうち原稿提出済み分をあげると、①阿部安成「切片を集めて―ハンセン病をめぐる療養所の史料論へ」(『研究紀要』第53号、滋賀大学経済学部附属史料館、2020年3月)、②同「ハンセン病をめぐる療養所を、訪う、知る、報せる(1)―「沖縄のらい者の父」青木恵哉」Working Paper Series No.295、滋賀大学経済学部、2020年3月、同「同(2)―「人気俳優」と「社会社説担当」同前No.未定、2020年4月発行予定、同「同(3)―「おひい様と呼ばれた井伊文子」『彦根論叢』第424号、2020年7月発行予定、がある。
 ①はハンセン病をめぐる療養所に残る新聞スクラップ帳を史料として活用する手法を考察し、一連の論稿となる②は前記滋賀大学経済学部ワークショップと同様に、ハンセン病をめぐる療養所やそこを生きた療養者を歴史としてあらわす主体をめぐる問題をとりあげ、歴史をあらわす当事者が持つ陥穽や見落としや不作為の過誤などを論じた。
 論稿としてはほかに、ハンセン病療養所に残る蔵書の目録とその解題、2019年8月5日開催ワークショップをふまえた書評論文、2020年3月23日滋賀大学経済学部ワークショップでの議論をまとめた研究動向の執筆と発表を2020年度中におこなう予定である。

 


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