経済学部

TOP研究と社会連携経済学部研究情報滋賀大学経済学部学術後援基金助成による研究成果滋賀大学経済学部学術後援基金助成による研究成果H30 ≫ ディーキン大学(メルボルン・オーストラリア)における客員研究員としての現地での研究活動および研究交流

ディーキン大学(メルボルン・オーストラリア)における客員研究員としての現地での研究活動および研究交流

会計情報学科 准教授 笠井 直樹

 本学のサバティカル研修制度を利用しメルボルン(オーストラリア)にあるディーキン大学ディーキンビジネススクールに客員研究員として滞在し研究活動を行なった。ディーキン大学と本校は以前から提携関係にあり,学部生を中心としてこれまで定期的に交流を行なってきているが,個人的には教員間の研究交流に関してはこれまであまり活発に行われてこなかった印象を受けていた。近年,米国の有名大学(主に東西海岸にあるビジネススクール)の多くは客員研究員として在籍する場合にそれなりのコスト負担が発生する可能性があることは聞いていたので,米国以外の研究機関も含めて在外先を検討していたところ運良く本学に短期滞在していた当大学ビジネススクールの教員と交流を持つことができ,会計・監査専攻の教員を紹介していただき当校に客員研究員として滞在することが決定した。
 今回客員研究員として滞在した当ビジネススクールの会計学科では,おそらく50名以上(ティーチング専任教員も含む)の教員が在籍し,会計専攻の学生数もビジネススクール内では最大規模であり,研究予算も潤沢であったことが印象的であった。受入担当になっていただいたFerdinand Gul教授は監査研究の実証研究分野では非常に著名な研究者であり,数年前に当大学に移籍してこられてからは,当学科において研究セミナーの充実を始め大規模データ・ベースの導入,国際カンファレンスの主催,優秀な若手研究者のリクルーティング等研究力の強化が図られ,当校の国際ランキングの上昇に大きく貢献しているとのことであった。
 このような充実した研究環境を活用し個人研究を進めるとともに,主にGul教授や当校会計学科所属の若手研究者および研究セミナー報告者等と研究交流を行った。会計学科では毎週学外から研究者を招聘し研究セミナーを開催しており,近隣のメルボルン大学・モナシュ大学の他,クイーンズランド大学・UNSW(シドニー)・オーストラリア国立大学等の国内の主要な研究機関だけでなく,シンガポール国立大学・シンガポールマネージメント大学・香港理工大学・オークランド大学・ボストンカレッジ・テキサス大学等海外の著名な研究機関に所属している一流の研究者を頻繁に招聘している。近いうちにトップジャーナルに掲載されるであろうレベルの高い研究報告について議論することができるとともに,研究テーマや最新の分析手法等個人研究に有益な多くの示唆を得ることができた。
 当校に滞在している間これまで取り組んできた研究テーマについて,仕掛品を含めデータの更新および分析の修正等これまで棚上げしていた論文の改訂を包括的に行うことができた。具体的には,外部監査人の特性(財務諸表監査の品質)と企業固有のコーポレート・ガバナンス(取締役会・監査役会の独立性・専門性,株式所有構造等),そして経営者の行動(利益マネジメント等)の3者間の関係について,新たに入手したデータを含め包括的な分析を実施した。外部監査人の特性に関するデータについては市販のデータ・ベースに収録されていないものもあるため,手作業で収集するなどデータ・ベースの構築にかなりの時間を費やした。また,別の研究プロジェクトで取り組んでいる会計不正に関するデータについても適宜事例の収集を行なった。
 包括的な分析を行った結果得られた主な発見事項は次のとおりである。独立性・専門性(財務・監査の専門的知識を備えている)が高いと判断される役員の多い企業ほど,品質の高い監査業務(監査法人の規模・監査報酬・業種専門性・経験年数等で代理)を提供していると想定される監査法人を選任する傾向にあり,利益マネジメントの抑制等,財務報告の品質が高い傾向にあることが明らかになった。また,この他にも株式所有構造の違いが監査人の選択行動に影響する傾向が明らかとなった。具体的には,外国法人株主のように情報の非対称性が大きい場合にこれを緩和するため品質の高い監査人を選択することを求める傾向にあることが明らかになり,また金融機関や一般事業法人株主といった国内の投資家はそうではない傾向が示唆されたのである。しかしながら,本研究では複数の指標を用いて分析を行っており,各々の指標の妥当性および複数の指標間の関連性に関して十分な検討を行えておらず,また,因果関係を特定するために有効な分析手法を十分に実施できている訳ではないことから,分析結果の頑健性を検証するために更なる追加分析の実施が必要である。さらに,Gul教授や在外先の若手研究者等と行った個人研究を含めた最新の研究動向に関する議論を通じて,これまで行ってきた分析に加えて企業のpolitical connectionといったファクターを追加して分析する等のいくつかの新たな着想を得ることができた。今回得られたネットワークを活かして今後共同研究の推進や個人研究の更なる精緻化に努めていきたい。


研究成果一覧のページに戻る