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地域金融機関の多様性指標を活用した金融政策効果の空間分析

経済学科 教授 得田 雅章

 地方創生が声高に叫ばれている背景には、地方都市の衰退という深刻な現状がある。本研究の背景には、金融の地理空間分析という新たな側面から、この現状にコミットできるという着想があった。本研究では、地域金融機関の与信行動を重視する金融枠組(クレジット・ビュー)に基づく、金融政策効果の地理空間分析を行う。独自指標「地域金融機関の多様性指標」を算出し、金融政策効果の不均一性に焦点をあて地域毎に定量化することで、政策分析に活用する。
 GIS(地理情報システム)を活用しデータを整備。地域的な比較検討や、異なるデータセットでの比較を経て、研究成果をまとめた。対象の地域金融機関は地方銀行(第一・第二)と信用金庫である。
 前者については、独自に「業務多様化率」を算出し、知的分布が把握しやすいように主題図としてまとめた。これは自身のホームページ上で公開している。後者については、独自に「地理的多様化率」を算出し、森・得田(2019)としてまとめた(詳細は次項)。森・得田(2019)に掲載しきれなかった地理的多様化率を視覚化させた主題図についても、自身のホームページ上で公開し、広く意見・批評を求めている。
 本研究の成果物は以下の通り
 森映雄・得田雅章「信用金庫の「地理的多様化」に関する研究」中京学院大学経営学部、研究紀要第26 巻、2019 年3月発行

 概要は以下のようにまとめられる。
 地域金融機関経営において、収益性や安定性といったパフォーマンスを向上させるために、大きく「業務の多様化」「貸出産業別多様化」「地理的多様化」といった3 つの多様化戦略が挙げられる。それぞれについて、理論的には正負相反する反応が考えられ、実体経済での影響を判断するのは極めて実証的な問題となっている。
 我々の関心は信用金庫における上記多様化群の影響にあった。これまで先の2 つを検証し終え、残る地理的多様化に取り組むのが小論の目的であった。そのために、まず独自に非観測変数である「地理的多様化率」そのものについて、本支店所在地住所データをもとに算出した。それらを個別信用金庫の財務諸表やマクロ経済指標とあわせてクロスセクションデータとして整備し、信用金庫パフォーマンス関数の推計に導入した。推計結果から得られた知見は以下の2 点に集約される。
 DeYoung et al. (2004)は金融機関の業務戦略として、(イ)「預貸金」からの収益を狙う伝統的貸出金利収益業務に比重を置いた経営戦略、(ロ)金融自由化による金融取引技術・商品を取り入れた有価証券運用収益業務に比重を置いた経営戦略を提唱した。信用金庫は「二重の業務規制」を受ける金融機関である。小規模庫は貸出金利収益戦略を中心にリレーションシップ・バンキング手法の利点を活かし、一層精緻な事業性評価を進め、貸出金利収益業務に特化しようとしている。地域経済事情等からその比率を高めることが困難な小規模庫は、諸々の問題を抱えながら「信金中金預け金」比率を高めざるを得ない状況に置かれている場合がある。一方、大規模庫は市場リスクを抱えながら、証券運用収益業務に比重を置いた経営戦略に軸足を動かし、収益機会の追及を模索しようとしている。
 もう一つは、地域金融機関"信用金庫"としての適正規模についてである。地域に根ざした金融機関として普通銀行に比してより強く特徴付けられている信用金庫は、たとえ監督官庁である金融庁からのお墨付きを得たとしても、本店所在地都道府県を越えるような拡大・多様化戦略を採るべきではないのかもしれない。これは資金需要者である企業の立場からしてみれば、他都道府県の信用金庫との取引を回避しているともとれる結果であった。推計両年度(2003,13 年度)の間に多くの信用金庫合併がなされたものの、安易な多様化戦略は決して収益向上に結び付かなかった。逆に小規模金庫にしてみれば、更なる多様化戦略はより大きな収益機会を得ることを示した。企業や預金者の潜在的に思い描く"適正な地理的多様化率"というものがあるとすると、それに応じた資金規模や店舗配置戦略を練る必要性があるという示唆が得られた。
 本論の「地理的多様化」分析を加えると、ほぼ同様の分析手法による「業務の多様化」「貸出産業別多様化」の個別結果が出揃ったことになる。今後は、これら多様化戦略群の相互関連性や影響度合いの優劣についての検証を進めることが課題となる。なお、多くの推計結果を提示したものの、紙幅の都合上、各推計モデルの誤差項不均一分散性の検定といった頑健性の検討は不十分であった。この点についても検討課題となる。  


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