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パプアニューギニアのアメレ語における呼称

社会システム学科 准教授 野瀬 昌彦

 パプアニューギニアのマダン州で話されるアメレ語の呼称に関して,家族,友人,職業などをアメレ語とトクピシンで何と呼ぶか調査した.その結果,社会言語学的に興味深い事象が明らかになった.その成果を国際学会で発表した.
 日本語では1人称単数の表し方に「僕・私・俺」などの複数の言い方が存在したり,「社長さん」や「銀行さん」のように職名や勤務場所を,人を呼ぶ際に使用したりする.このような「人を呼ぶとき」にどのような言語表現を使うかについて,「呼称」と名付けることができる.
 本研究では,パプアニューギニアのアメレ語における呼称の調査を実施し,その成果発表をするものである.パプアニューギニアは言語的多様性が富んだ地域であり,800言語以上もの現地語が話される地域で,調査はその中のひとつであるアメレ語とパプアニューギニアの共通言語であるトクピシンの調査を実施した.アメレ語の場合,アメレ語話者およびアメレ語が通じる者を"wari"(「友人」を意味する)という呼称でまとめられることが判明した.
 2015年から2017年に事前にパプアニューギニアで呼称の調査を実施し,現地調査で入手したデータを整理し,"Address terms in Amele, Papua New Guinea"という研究題目にまとめ,2018年の6月にニュージーランドのオークランド大学で開催されたSociolinguics Symposium 22という国際学会で研究発表を実施した.
 人を呼ぶ際の「呼称」は言語によりかなり異なる.例えば,日本語では2人称単数や複数に相当する「君・あなた」という表現では日常会話ではあまり使用しない一方,英語や中国語などでは2人称の用法は頻繁に観察される.また,多くの言語で「父」や「母」などの親族名称も多様である.本研究では,日本語や英語での先行研究を参考にしながら,パプアニューギニアのアメレ語の調査を,パプアニューギニアの共通言語であるトクピシンとあわせて実施した.パプアニューギニアの現地語については,呼称語彙については不明な点が多く,本研究の調査を通して,アメレ語の呼称(人称,親族名称,職業名,地域名など)がどのような体系になっているかを明らかにしようとした.実際,アメレ語およびパプアニューギニアの言語では,他地域から来た人に対して,その人の出身地域を呼称する傾向がある.例えば,日本から来た人だと"japan"とか,カルカル島から嫁いできた人を"karkar"と呼んだりするわけである.
 言語学において,呼称の研究は,社会言語学や語用論の分野に属する研究分野となり,本研究の発表の場所として,社会言語学の国際学会を選択した.
 2年ごとに開催されすでに21回の歴史があるSociolinguistics Syposiumの22回大会を選んだ.2018年の6月27日から30日にニュージーランドのオークランド大学で開催され,1000人規模の参加者が世界から集まった.ニュージーランドでの開催ということで,南太平洋やオセアニアの言語の研究者も多く参加し,情報交換をすることができた.
 学会においては,本研究と類似した呼称の研究発表(英語,ロシア語,フィンランド語など)もあり,自身の発表でも有益なコメントを頂くことができた.とりわけ,アメレ語の「友人」を意味する"wari"はオーストラリア英語での"mate"に相当するのではないかという指摘もあり,今後のさらなる研究の方向性を明らかにすることができた.と同時に,呼称に関する共同研究を始めることになった.


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