経済学部

TOP研究と社会連携経済学部研究情報滋賀大学経済学部学術後援基金助成による研究成果滋賀大学経済学部学術後援基金助成による研究成果H28 ≫ 外部監査の品質の違いが財務報告の品質に及ぼす影響についての実証的研究

外部監査の品質の違いが財務報告の品質に及ぼす影響についての実証的研究

会計情報学科 准教授 笠井 直樹

 本研究は主に,近年米国および欧州等の規制当局により実施・検討されている,財務諸表監査を担当する監査業務担当パートナー(engagement partner)の個人名に関する強制開示制度に着目し,わが国の公表情報(監査報告書)を基に,可能であれば財務諸表監査を担当した監査チームを識別し,その提供する業務の品質の違いが監査先であるクライアント企業の財務報告の品質に対してどのような影響を及ぼしているのかを検証することを目的としている。従来,米国および欧州等の国々では財務諸表監査を担当した会計事務所名は公開されていても,実際の業務実施責任者である個々の監査担当パートナー名については開示されてこなかった。しかしながら,例えば,英国においては2009年4月以降監査を担当したengagement partnerについては監査報告書に署名することが義務付けられており,また,米国においてもPCAOB(米国公開会社会計監視委員会)に提出する「Form AP」においてengagement partnerの氏名および監査業務に従事した他の会計事務所に関する情報を開示しなければならないという制度が導入されることが予定されている。本研究では,こうした制度的背景についての検討,そして,当該制度に基づきその効果・意義を検証している先行研究とわが国の公表データを用いた場合の分析上の問題点についての比較検討を併せて行っている。わが国においては,従前より公開情報である監査報告書において監査担当パートナー個人の氏名が記載されており,米国・英国を始めとする他の諸外国と比べ,個々の監査担当パートナーについての大規模なデータを入手できるというメリットがある。 また,個々のパートナーの氏名を把握することで,例えば,すでに多くの国々で導入されている監査担当パートナーのローテーション制度が財務報告の品質に及ぼす影響を検証することができる等の分析上のメリットがあり,さらに,個々のパートナーの氏名から監査業務を担当した監査チームを識別することができれば,監査チームレベルでの,実施した監査業務によって財務報告の品質にどのような影響を及ぼしたのかについて公開データから検証することが可能である点も重要な分析上のアドバンテージである。ただ,パートナー個人の氏名に関する情報に基づいて監査チームを識別することは,かなり強い仮定をおかなければならないため,その点については留意する必要がある。
 このように,わが国においては,現在米国および英国を始めとする諸外国において実施あるいはその導入が検討されている当該制度について,すでに以前より導入されていたという点で様々な分析を実施するうえでアドバンテージがあり,当該論点に関連した国際的に進展している研究の発展に資する研究成果を挙げることが可能である。そこで,監査報告書に記載されているデータを手作業で収集し,データ・ベース化し,財務報告の品質を代理する指標を推計したデータ・ベースと統合した上で,監査チームレベルでの,提供する監査業務の品質の違いが,結果として財務報告の品質にどのような影響を及ぼすのかについての検証を試みた。しかしながら,公表データから監査チームを識別することはかなり困難な作業であるため,現在データおよび分析手法の精緻化に努めているところである。今後,さらにブラッシュアップし国際学会および海外ジャーナルに研究成果を投稿していく予定である。また,当該論点に関連した研究成果の一部については,2017年3月9・10日にアメリカ合衆国グアム準州において開催された国際学会International Conference on Business, Economics, and Information Technology 2017にて研究報告を行った。




研究成果一覧のページに戻る