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「組織再編における少数株主保護」

特任准教授 藤田 真樹
 親子会社において、親会社である純粋持株会社の主な業務は、子会社を支配・統括することにある。しかし、子会社の意思決定は、子会社の支配株主である持株会社の取締役等が行う。そのため、純粋持株会社の少数株主には、子会社の事業活動に直接関与できないという株主権の縮減の問題がある。平成9年の独占禁止法の改正により、わが国においても、純粋持株会社の設立が可能となったが、通常の株主代表訴訟の係属中に株式交換・株式移転が行われ、原告株主の株式を親会社株式に転換させることによって、原告適格を失わせ、訴を却下させる事件が相次いだ。
 このような背景があり、2014年の会社法改正では、親会社株主が子会社取締役に対する損害賠償を追及することを可能とする多重代表訴訟制度の導入が検討された。しかしこの制度は、[1]最終完全親会社の株主に限定したものであること、[2]少数株主権であること、[3]親会社に損害が発生していること等、厳格な要件が課されており、極めて限定された場合にしか用いることが出来ない制度となった。
 我が国の多重代表訴訟制度は、主に米国法、フランス法に着想を得たものであると言われる。しかし、フランスの破棄院判決は、日本で議論されているような多重代表訴訟制度を認めたものではないとする実地調査が存在する。そこで、本研究では、多重代表訴訟制度が明確に存在し、既にある程度議論の蓄積のある米国法を比較の対象として、我が国の多重代表訴訟制度の立法政策ついて検討を加えることにした。
 米国法に関する研究結果としては明らかになったのは以下の点である。第一に、多重代表訴訟を認めた判決は多数存在するが、その理論的根拠をめぐっては米国においても、いまだ議論の対立がある。第二に、米国においては、濫訴の懸念から代表訴訟の手続面において厳格化しつつあるが、我が国の多重代表訴訟よりも緩やかな要件で行使を認めている。第三に、米国では、手続の厳格化から、多重代表訴訟が利用される機会が減ってきてはいるが、少数株主保護のための代替手段として証券クラスアクション制度が用意されている。
 一方、我が国では、通常の代表訴訟制度ですらも、濫訴が懸念されるほど用いられていない。また、現在、親会社少数株主を保護するための他の法制度も充分に用意されていない。このような点を考慮するならば、改正法によって導入された多重代表訴訟制度は、必要以上に厳格な行使要件が課されたものであると評価できる。本研究では、以上の観点から、[1]最終完全親会社に限定する必要はないこと、[2]通常の株主代表訴訟同様に多重代表訴訟も単独株主権とすべきこと、[3]立証の困難な親会社の損害の発生の要件を外すべきこと等の具体的な提言を行った。


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