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David Hilbert教授招聘(1共同研究、2講演、3ワークショップ)

社会システム学科 准教授 西村 正秀

 本研究は、アメリカのイリノイ大学シカゴ校からDavid Hilbert教授を招聘して実施されたものであり、(1)西村との共同研究、(2)講演、(3)ワークショップから構成された。 Hilbert教授は、色の哲学、知覚の哲学、近世哲学史(George Berkeley)の専門家であり、(1)~(3)の事業もこれらの領域と関連したものである。
  (1)については、「知覚経験の限界(The limit of perceptual experience)」というテーマのもとで、知覚経験はどこまでの性質を表象しうるのかという問題に取り組んだ。 「知覚経験が表象しうる性質は色や形などの低次性質に限定されるのか」という問いは、現在、知覚の哲学において盛んに論じられている。 この問いに対して、何人かの哲学者は、「知覚経験は低次性質に加えて、因果性や自然種などの高次性質も表象しうる」という主張を唱えている。 今回の共同研究では、The Contents of Visual Experience (2010), Oxford U. P. で高次性質の表象可能性を唱えたSusanna Siegelの議論を批判的に検討し、「たしかに、知覚経験は低次性質のみを表象するわけではないが、少なくとも因果性は表象しない」という主張を擁護した。 Siegelの議論は、「現象的性格の相違は表象内容の相違を含意する」という前提のもとで、二つの出来事が現象レベルで結合しているように見える経験とそうは見えない経験を対比させて(「現象的対照」)、 「知覚経験は因果性を表象しうる」という主張を、その対比を説明する最善の仮説として擁護するというものである。このようなSiegelの議論に対して、 Hilbertと西村は現象的対照を別の仕方で分析することを提案した。具体的に言えば、Siegelが現象的対照で使用している諸経験は見かけよりも複雑であり、 (a)知覚経験が出来事間の非因果的な関係を表象しているケースと、(b)知覚経験とは別の認知状態が因果関係を表象しているケースから構成されている。 我々の分析によれば、知覚経験は、(もし出来事間の何らかの関係を表象しているとすれば)因果関係とは別の関係を表象しているのである。この分析を正当化するために、 Hilbertと西村は、通時的な知覚内容の基本単位を従来考えられてきた「対象」ではなく「プロセス」と置き換えて、(a)と(b)に対してSiegelが提出している反論を退け、 さらに、我々の分析に適するモデルの構成を、Lance J. Ripsが提案する知覚を通じた因果性の認識に関するモデル(「因果図式モデル」)を部分的に活用しつつ試みている。 現在は、互いに継続的に連絡を取りながら、以上の内容を共著論文として執筆中であり、完成後に海外の学術雑誌への投稿を行う予定である。
  (2)については、滋賀大学経済学部と京都大学大学院文学研究科においてHilbert教授に講演を行ってもらった。前者は、"Central banking and the divine language: From visual signs to paper currency in Berkeley's economic theory"のタイトルで、18世紀アイルランドの哲学者Berkeleyによる紙幣の理論を、彼の視覚理論との対比から考察する講演であった。 後者は、"Perceivers, circumstances, seeing color"のタイトルで、色の存在論に関する講演であった。
 (3)については、東京大学と滋賀大学経済学部で行われた知覚の哲学のワークショップに参加した。 前者は1st Todai Perception Workshopと題されたものであり、Hilbert教授はkeynote speakerとして上記の"Perceivers, circumstances, seeing color"を、西村は"The Temporal Discontinuity of Perceptual Experience"というタイトルの講演を行った。後者は、大津サテライトプラザで行ったワークショップである。 このワークショップは、知覚の哲学に関する日本の若手研究者を招いて開催したものであり、Hilbert教授には、ゲスト・スピーカーとして"Perceptual Constancies"というタイトルの講演を行ってもらった。
なお、(2)(3)については、以下のサイトも参照されたい。
滋賀大学講演: https://mokuroku.biwako.shiga-u.ac.jp/eml/kouenkai2014/LE20140710.htm
京都大学講演: http://www.cape.bun.kyoto-u.ac.jp/capes/
東京大学ワークショップ: http://www.richarddietz.net/admin/ckfinder/userfiles/files/todai_perception_workshop1%281%29.pdf
滋賀大学ワークショップ: https://mokuroku.biwako.shiga-u.ac.jp/eml/kouenkai2014/LE20140712philosophy.pdf

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