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21世紀のセントラル・バンキング-中央銀行の本質を考える

ファイナンス学科  教授 小栗誠治

○ 英国のイングランド銀行(1694年設立)は中央銀行の原型を残しており、中央銀行に関する実践、研究、資料とも最も豊富である。またLSEには、セントラル・バンキング論の世界的第一人者であり、長年イングランド銀行のセントラル・バンカーでもあったグッドハート(Goodhart)教授がおられ、近年もイングランド銀行の金融政策委員を兼務されていた。現在のイングランド銀行のキング(King)総裁は元LSE教授であり、LSEのデイビス(Davies)現学長は元イングランド銀行副総裁であった。このようにLSEとイングランド銀行は何かとつながりが深く、私の考えるセントラル・バンキング論を研究するのにふさわしい伝統と環境を備えていた。
○ セントラル・バンキング原論を構築するにあたっては、何よりも、セントラル・バンキングの本質が何であるかを理解することが最も大切である。例えば、中央銀行券の本質、通貨発行特権とシーニョレッジ、中央銀行の「最後の貸し手」機能、中央銀行と政府の関係などはセントラル・バンキングの本質を探る核心となる事柄であり、私の当面の研究上の関心事項である。
○ 中央銀行に関する近年の研究を見ると、私の考えるセントラル・バンキング論にフィットしたものが極めて少ないように思う。純粋アカデミックな経済学の世界では研究の急速な発展により著しい成果が上がっており大変喜ばしいことであるが、ことセントラル・バンキング論になると、何かが欠けている、中央銀行を論じる感覚にズレや違和感を感じる。実務家のジャーナリスティックなセントラル・バンキング論も嗅覚の鋭さを感じるときもあるが、多くは時流的な底の浅い議論が多い。
○ セントラル・バンキングには特有のスピリットといったものがある。このスピリットを内に秘めた総合的なセントラル・バンキング論の研究、確立が切に望まれる。セントラル・バンキング論はサイエンスの一分野であり、そうした方向での研究が顕著に進展してきたが、同時にアートの面がかなりある。セントラル・バンキング論は、サイエンスとアートを一体としてどう理解するか、両者の濃淡を研究の中にどう入れ込むかが重要なポイントである。そのためにはセントラル・バンキングを実践し、中央銀行券の発行やファイナンスの意味するところを頭と体の両方で学び知ることが不可欠のように思う。その上で物事を総合的に捉え科学的な政策判断を行うことが大切であり、これらを備えた人の書いたものは深さや広さが一味も二味も違っている。
○ LSEにおいていくつかの貴重な文献(ハーベイ<Harvey>、コック<Kock>、プランプター<Plumptre>の著書など)を読む機会に恵まれ、その中に私の考えるセントラル・バンキング原論のヒントをいくつか見出すことができた。もちろん、これで完全というものではないが、手ごたえを感じるものがあった。因みに、ハーベイはイングランド銀行で最初の専任副総裁、コックは博士の学位を持った南アフリカ準備銀行総裁であり、プランプターはカナダの大学教師から若くして政府に入り要職を務めた人である。いずれもセントラル・バンキングの何たるかを論ずるにふさわしい人たちといえる。
○ こうした研究に加え、LSEのワークショップ(マネー・マクロ<清滝信宏教授が中心>)やセミナー(金融市場グループ<グッドハート教授が中心>)に参加したり、日本銀行ロンドン事務所での討論やロンドン証券取引所の見学、調査などを行い、研究を深めることができた。
○ ロンドンでの研究の成果は、以下のようなタイトルのもとに一応まとめることができた。しかしいずれもドラフト段階であり、これらを完成させるのはこれからの大きな仕事である。
1.中央銀行原論序説―ハーベイ、コック、プランプターの中央銀行論の比較考察
2.銀行券は中央銀行の債務か?
3.中央銀行のシーニョレッジの再検討
研究成果発表の時期と方法
今回のロンドンでの研究の成果は、持ち帰った貴重な文献の精査、活用を踏まえ、平成18年度以降、彦根論叢、研究会などを通じて逐次発表していく予定である。
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