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フランス自動車産業における労働編成・労働時間の弾力化とトヨタ生産方式の導入──ルノー・フラン工場の事例研究──

経済学科  教授 荒井壽夫
 世界の自動車メーカーは、特に1980年代の後半以降、国際競争の激化に対応するためにトヨタ生産方式の学習・導入と労働・雇用の弾力化(フレキシビリティ)を追求するが、90年代後半のフランスにおいては、労働時間の短縮による雇用問題の解決を目指す週35時間労働法によって、そうした弾力化に拍車が掛かった。日仏自動車産業における労働・雇用の弾力化に関する国際比較研究の一環として実施した今回の短期調査研究の目的は、今日のフランス自動車産業において、こうした時短はどのような労働・雇用の弾力化を生み出し、どのようにして生産性向上との両立を可能にしているのか、また一種のベンチマークとして導入されたトヨタ生産方式はルノーの工場においてどのような導入の状況にあるのか、さらにこれらの動向との関連で、最近の女性活用に関する協定はどのように評価されるのか、といった点を事前質問表にもとづいて工場経営陣との面談、労働組合支部との面談および工場見学によって部分的にも明らかにすることであった。 実際は「個人的訪問調査」という理由から工場経営陣との面談と工場見学は許可されず、やむをえず、許可してくれた二つの労組支部CGT・CFDTとの面のみに依拠して調査研究を実施した。
 事前質問表にもとずく面談の結果、明らかになった共通点は、大まかには次のような点である。
 週35時間協定による労働時間短縮の雇用創出に対する効果は大きくない。生産活動の増大が雇用増加を直接もたらしている一方、時短のもとでの生産性向上追求・ポスト削減が雇用創出を抑制してきたからである。しかも増加部分は主としてCDDや派遣の有期契約の諸形態である。
 時短のもとでは同時に、生産性向上のために、労働編成の柔軟化が追求されており、UETというチーム編成の内部で作業部署の複数担当=「複能工」化が追求されている。 賃金と格付けの点では、ポストが削減され教育訓練が実質的には保障されていない状況のもとで、「職務遂行能力」の有効認定による昇進・昇格は以前よりも時間がかかり容易ではない。賃金の個別化は、異議申し立ては可能であるとはいえ、UET長の権限で相対評価の方式で実施されている。
 トヨタ生産方式の導入状況については、カンバンは導入されていないものの、「緊張した流れ」つまり標準作業の強制によるムダな動作・時間の排除とそして在庫の撤廃の探求を通じてのサイクルタイムの短縮化、パフォーマンスの向上が追求されているとともに、ジャストインタイムの部品納入を保障するために、部品メーカーの担当者の工場内常駐と納入部品の種類・数量・時間の管理が行われている。またカイゼン活動については、提案活動として展開され、この間平均提案数が増加しており、それを動機づける手当金も支払われている。
 最近の女性活用に関する協定について言えば、その効果はまだほとんど発揮されていない、つまり女性従業員数はそれほど増えていないし、そのための特別の労働環境改善も行われていない。経営陣の今後の対応を見守る必要がある。
 最後に、従業員の雇用を保障するために今後必要な戦略は、市場で売れる車を開発し売れる数量に対応するように生産する点にあることを提起したい。  以上のような点が、今回の短期調査研究の結果明らかになった概要であり、総じて、トヨタ生産方式の部分導入・独自吸収を行いつつ、コスト削減と生産性向上のために労働編成と雇用の一層の弾力化を追求していることの一端を明らかにすることができたと考える。
 すでに述べたように、今回の短期調査研究の当初の希望であった工場経営陣との面談と工場見学が許可されなかったことは、きわめて残念であり、調査研究を制約するものとなった。メーカー間の競争激化のもとで外部観察者・外国人に対する姿勢が厳しくなっている状況のもとで、困難ではあるが今後、実現の方策を探求したい。また、今回のフランス滞在時に、ドゥヴィルパン政権による「初採用契約」(CPE)という名の雇用政策に対する学生・高校生・労組の大規模な反対運動にちょうどぶつかってしまい、一方の労組担当者が工場の代表者ではなく現場の一幹部であったことも多少残念ではあった。とはいえ、貴重な現場の声を聴き一定の文書資料を入手できたことは、今後の研究展開にとって益することの大きい機会となった。最後にそれゆえ、このような貴重な機会を与えていただいた本学部学術後援基金に深くお礼を申し上げる次第である。
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