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金融政策と土地資産価格に関する空間分析

経済学科 准教授 得田 雅章

本研究では、(1)首都圏・中部圏・近畿圏主要都市の市区別パネルデータを整備したうえで、(2)パネル共和分分析により均衡地価を求め、(3)誤差修正モデルを推計することで地価の変動要因を長期・短期の観点から探った。分析に必要なデータには観測されないものが多い中、整備するにあたってはGIS(地理情報システム)を活用した。パネル分析には固定効果モデルを採用した。
実証分析の理論的コアモデルは実質地価関数とした。収益還元価格理論に基づくと、地価、レント、名目利子率、一般物価水準が重要な変数となる。だが、これら変数に対応する全国市区単位でのセミマクロデータは観測されていないものが多いため、モデルの推計に先立ち、以下の手順を踏むことで各変数の適切なデータ整備を図った。
○地価:鑑定値データ(公示地価・都道府県地価調査)を価額(面積×単価)で加重平均したものを用いた。地価指標を集計する場合、単純平均して算出するという手法が広く用いられている。しかしこれでは地価のレベルが高い地点も低い地点も同ウェイトとして集計されてしまい、地価の変動期においては地価レベルの低い地域の地価変動インパクトが過大評価される危惧が生じる。加重平均地価はこうした問題に対処するものである。
○レント:市区別の課税対象所得が利用できるので、可住地単位面積あたりの課税対象所得を代理変数として用いた。
○名目利子率:都市銀行の貸出約定平均金利を用いた。日本全体としてのアグリゲートデータしか公開されていないため、都道府県ごとの預貸率ならびに市区の経済規模を勘案し、独自の利子率指標を作成した。
○一般物価水準:地域別の物価指数は総務省統計局の消費者物価指数(CPI)が利用可能であるが、単位は県別である。これを以下の手順に従って市区別まで細分化した。
 (1) 都府県ごとに経済・物流重視の観点から主な隣接都府県をピックアップし、それらの地理座標を確認する。
 (2) CPI の都府県庁所在市別中分類指数を、各都府県庁所在地の市区のものとしたうえで、当該市区から隣接都府県までの距離の逆数を用いてウェイトを算出する。
 (3) 隣接都府県の近接性をウェイトとした加重平均を計算し、これを当該市区の物価指数とする。ただし、都府県庁の所在市区については隣接都府県のウェイトをゼロと置く。より厳密に空間重み行列を定義することで対応する方法もある。物流量や都府県境の地形、通勤の方角等、考慮すべき要因がいくつか考えられるが、本研究では第一次接近として、より簡便な上記手法を用いることとする。
○ほか:
・収益還元モデルに含まれないが重要と思われる変数(人口成長率、生産年齢人口、事業所数等)については、短期変動モデルに含めて検証した。
・分析期間中に合併を行った自治体については、可能な限り旧市町村のデータを取り込んだ遡及データを作成した。
パネル共和分分析の結果、理論地価と実際の地価は、短期的には乖離するものの長期的には均衡へ収束することが総じて示された。その際、大きく寄与していたのは、レントの代理変数としての課税対象所得とバブル生成の可能性を包含する将来地価の期待であった。これらの影響の程度が定量化された点は重要だ。一方で、長期均衡値からの短期的な変動は、都市部の市区で大きかったが、必ずしも都府県庁所在地とは限らなかった。均衡値からの乖離幅が大きくなった時期は、バブル生成・崩壊期であることが示唆された。
さらに、長期均衡からの乖離を修正するメカニズムを内包したECM(誤差修正モデル)型の地価関数をパネル推計することで、地価変化率の構成要因を探った。いくつかのモデルを検証した結果、事業活動の動態と所得の変化率が大きく寄与する半面、実質金利変化の影響はごく限られたものだった。
結果発表
 1.結果発表の時期
・平成24年10月本学リスク研究センター ワーキングペーパー(CRR WORKING PAPER SERIES No.J-30)
  2.結果発表の方法
・学術雑誌への投稿(平成25年5月現在 投稿中)
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