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金融危機と会計規制に関する研究

会計情報学科 准教授 山田 康裕
研 究 成 果
本研究は,大日方論文(大日方隆編著『金融危機と会計規制』中央経済社,2012年3月,第10章)で示された論点(の1つ)を異なる視点から論理展開したうえで同様の結論を得ることによって,大日方論文の論証を多様化させることを目的とするものである。具体的には,アメリカの金融商品会計基準(以下では'SFAS115'という)における有価証券の公正価値評価の問題を取り上げ,概念フレームワークとSFAS115の規定との論理的整合性を検討した。
概念フレームワークでは,活発な市場の存在を前提として,実現可能基準が規定されている。活発な市場がある場合には実現可能基準が適用されて評価損益が認識されるのに対して,ない場合には適用されず評価損益も認識されることはない。このような活発な市場の有無によって実現可能基準が適用されるか否かが変わり,それによって測定属性も異なってくるのである。これは,「所定の会計基準の枠内において,時価評価から償却原価法による評価へ自動的に移行することになる」とする大日方論文の主張と同様である。そこでの違いは,大日方論文は,「市場流動性が低い債券については,『主観のれん>0 と想定できない』とはいえない」との理由から主観のれんの有無によって評価の移行がおこなわれるのに対して,本研究の議論では活発な市場がある場合には実現可能基準が適用され,ない場合には適用されないことによって評価の移行がおこなわれるという点にある。これを図示すれば,次のようになる。

有価証券の評価(評価益の場合)
有価証券の評価(評価益の場合)
有価証券の評価(評価損の場合)
有価証券の評価(評価損の場合)
このように考えるならば,本来,金融危機を誘発するような評価損の連鎖は生じないはずであるが,上記のような測定属性の変更が行われなかったのは,概念フレームワークで規定されている実現可能基準による評価損の認識について,SFAS115では十分に考慮されていなかったことが原因であると考えられる。さらに,このような実現可能基準による認識が看過された背景には,SFAS115の設定過程において,フローの認識よりもストックの評価の議論が先行したことがあったと推察できるのである。
結果発表
  1.結果発表の時期:2012年3月
  2.結果発表の方法:大日方隆編著『金融危機と会計規制』中央経済社,第11章「金融商品会計基準の論理的整合性」
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