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「デジタル革命」をめぐるオーラルヒストリー研究

社会システム学科 准教授 柴山 桂太
研 究 成 果
 日本の電機産業は1970年に入り、新たな段階を迎える。電卓の爆発的な普及がもたらした半導体産業の発展によって、デジタル革命とでも言うべき段階を迎えたからである。加えて1971年のニクソン・ショック以降、ドルの下落と円の上昇がじわじわと進み、1985年のプラザ合意以降は、急伸する円高にどう対応するかが、各企業の大きな経営課題となった。技術パラダイムの変化と、国際環境の急激な国際化(グローバル化)にどう対応しつつ、シャープ社は経営上の困難を乗り越えていったのか。前年度に引き続き、今年度も本学OBの桂泰三氏(シャープ社顧問)にインタビューを行い、その記録を行った。
 インタビューは全4回に及び、その後も修正などで合計20時間以上、お話を伺った。桂氏が副社長となった1986年は、日本がバブル経済に突入していった年にあたる。そして桂氏が副社長を退任された1997年は、バブル崩壊後の日本経済が深刻なデフレ不況に突入していった、同じく最初の年である。1986年から1997年まで、前半は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた日本経済の絶頂時代、後半は「日本病」などと言われた日本経済の深刻な危機の時代(そしてそれは今も続いている)と、桂氏の経営者としてのキャリアはジェットコースターのようにダイナミックである。このとき、桂氏が何を考え、何を行動されたのかを、インタビューによって記録することになった。
 やはり重要なのは、液晶戦略の成功であろう。1991年から本格的に始まった液晶パネルへの投資は、後にシャープ社の代表的な事業を生むことになった。このときの回顧が本研究の白眉をなす。資料をお見せ頂きつつ、莫大な液晶投資に踏み切る際の判断の根拠、迷い、思いなどを詳しくお話いただいた。その苦渋に満ちた判断のプロセスは、一般に「不確実性下の意志決定」と呼ばれる経済・経営の研究に、具体的で重要なケースを提供するものとなるだろう。
 あらためて全体を振り返ると、全インタビューを通して桂氏が示されたのは、シャープ社の未来のみならず日本経済の未来に対する真剣な危機意識である。液晶で成功したシャープも、今や韓国・台湾などの電機メーカーに追われ、苦しい立場にある。のみならず日本経済もかつての経済大国の地位を中国など新興国に奪われつつある。九〇年代以降、グローバル化が急速に進む中で、企業は抜本的な経営戦略の見直しが必要とされた。デジタル技術も、アメリカのインテル社やアップル社の成功によって急激に新たな展開を迎えつつある。この急激な変化に、日本企業と日本経済はいかに対応していくのか。雇用を作り出すという企業の社会的責任と、将来性のある事業の拡張という二つの課題をどう達成していくのか。「経営はリスクマネージメントである」という桂氏の経営哲学は、今後とも次の世代に引きつがれるべき重みを持つ。
 毎回のインタビューとその準備に多大な労力を割いていただいた、桂泰三氏にあらためて感謝申し上げたい。
結果発表
 1.結果発表の時期 今年度4月より順次、ワーキングペーパーとして公表。
  2.結果発表の方法 リスクセンター・ワーキングペーパーとして公表。
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