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中央銀行の役割の再検討-「イングランド銀行史」を手掛かりに-

ファイナンス学科 教授 小栗 誠治
研 究 成 果
  1. 現在米欧では、2007年以降の世界金融危機の経験を踏まえて、金融監督や規制の改革において中央 銀行の機能の見直しが焦点になっている。例えば英国では、2010年6月、金融の監督、規制の抜本的 改革方針が発表された。金融監督機関である金融サービス機構(FSA)を2012年末までに解体し、金融 機関を監督する権限の大部分を中央銀行のイングランド銀行へ移管するという大改革である。
  2. このように金融監督のあり方が大きな問題となる中で、本研究は特に英国に焦点を当て、英国において初めて金融の監督が明文化された「1979年銀行法」に遡り、その背景、経緯、法の内容等の詳細な検討を行った。そのことは、現下の金融監督のあり方を考察する上で、有益な示唆を提供するものと思われる。
  3. そうした研究の一環として、平成23年度は、この分野の最良の文献であるForrest Capie, THE BANK OF ENGLAND : 1950's to 1979 (Cambridge University Press, 2010. Pp. xxviii, 890) の'12 Banking Supervision'を全訳するとともに、その内容を詳細に検討した。同書はキャピー(Capie)教授がイングランド銀行の委託を受け、1950年代から1979年までの約30年間にわたる同行の歴史を詳述したものであり、クラッパム(Clapham)、セイヤーズ(Sayers)、フォード(Fforde)に続く、公式のイングランド銀行史の第4巻にあたる。上記の約30年間はイギリス経済にとって幸運と不幸が混じった時期であったが、同書はこの期間のイングランド銀行の歴史を大きく5つのテーマ、すなわち為替レート政策、金融政策、金融危機、銀行監督、そして内部組織について記述している。
  4. 同書の「第12章 銀行業の監督」では、1973年から74年にかけて英国で起きたセカンダリー・バンキング危機とEECからの要請という2大契機を背景に、英国の古き良き伝統に決別を告げるかのように、画期的といわれた「1979年銀行法」の制定に踏み切った状況が詳細に記述されている。同法により初めてイングランド銀行の監督機能が明文化された。同書はイングランド銀行の所有する第1級の資料を駆使しながら、同銀行内部の動き、財務省や内閣との微妙なやりとり等を当時の主要な関係者の発言や覚書等も引用しながら活写している。
  5. 「1979年銀行法」の主な内容は次のようなものである。
     (1)イングランド銀行により銀行と「認定」された先及びその他イングランド銀行により預金取扱機関として「免許」をうけた先のみが預金の受入れを行うことができる。
     (2)イングランド銀行は認定・免許を与えた金融機関から業務状況に関する報告の提出を命ずることができ、また必要とあれば、これらの金融機関に対し調査を実施することができる。
     (3)預金者保護のため、預金者保護基金を設立する。保護対象預金は1預金者につき1万ポンドを限度とし、払い戻しは対象預金の75%までとする。
     (4)認定銀行等限られた金融機関以外が「銀行」ないしこれに類似の名称(銀行業等)を使用することを禁止する。財務省は、イングランド銀行と協議の上、預金取扱いに関する広告・宣伝の内容、形式につき規制を定めることができる。
  6. ただし、英国で初めての銀行法といっても、厳格な規定を設けず、当局の判断に任されている部分も数多くある。イングランド銀行は、実際の監督権限の行使に当たって、画一的な規制を一律に適用するのではなく、各行の個性を尊重した柔軟な運用を行った。その意味では旧来の慣習法の精神がそのまま生きているといってもよく、いかにも英国らしい銀行法といえる。
  7. 研究の成果は、フォレスト・キャピー著、イギリス金融史研究会訳『イングランド銀行:1950年代から1979年まで』「第12章 銀行業の監督」として将来出版する予定である。
結果発表
1.結果発表の時期 2.結果発表の方法
上記のとおり、フォレスト・キャピー著、イギリス金融史研究会訳『イングランド銀行:1950年代から1979年まで』「第12章銀行業の監督」として将来出版する予定。

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