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国際経済システムリスクのガヴァナンスのための制度的補完としての地域経済統合の可能性に関する研究

経済学科 教授 小倉 明浩
研 究 成 果
 グローバリゼーションが進展する世界経済において、これまで市場経済を支えてきた国民国家とその協力体制としての国際レジームを中心とする制度枠組みの対応力が問題となっている。つまり、グローバル展開する経済活動に対して、国家や国際条約・国際機関の対応力の不十分さが次第に顕著となってきているのである。世界的な金融危機の伝染・連鎖に端的に示されるように、国家間の相互依存関係の深化に伴うリスクの高まりへの対応力に限界が見られるのである。本研究では、そのような現状に対して、それを補完する制度的枠組みとしての地域経済統合に着目し、その可能性を検証しようとするものでる。
 現在のグローバル化においては、一方で各社会の補完制度がグローバルな競争圧力によって放棄を迫られる一方で、グローバルな補完のための社会制度整備が遅れている。市場のグローバル化が急速進む一方で、それが機能する基盤となる社会制度に空白が生じつつあるところに、グローバル化の問題点がある。
 主権国家で構成される現在の国際システムを前提とすれば、そのガヴァナンス整備の方向はとして有力な一つの方向が地域経済統合である。つまり、より多様性・異質性が小さい国の間で、グローバル化する市場への対応力を持った規模の大きい主体を形成していく方向である。この代表例は、いうまでもなくEUである。EUは最も進んだ例であるが、それほど進んでいなくとも世界各国で様々なレベルの経済統合推進の動きが出てきている。
 今日の国際経済環境のもとではその変化に対する対応力を持つことが必要である。このような保障機能を地域経済統合に期待することも可能な場合がある。そのような保障機能としては、まず不安定資本の流れへの対応力をあげることができよう。メキシコが危機に際して受けたアメリカからの支援や、ギリシャ、ポルトガルなどがEUから受けた支援がその好例である。しかし、発展途上国間の地域統合の場合においては、ASEANにおける「ASEAN共同体」形成への動きのように、統合への参加が域内国間の政策協調を生み出す土壌となり得たとしても、その金融面の力の弱さゆえに域内の相互支援の効果は疑問とせざるを得ない。
 とはいえ、そのような協調の基盤ができるということは、安全保障上はプラスとなりうるし、そのコストを引き下げるという点で経済にも貢献できる。ASEANの地域内貿易自由化協定(AFTA)が、域内の緊張緩和に果たした影響は大きいし、MERCOSURが、地域大国として張り合ってきたブラジルとアルゼンチンの間の協調の基礎となりうるという面も重要なその貢献なのである。
 地域経済統合を自由化の観点のみから評価する、つまり世界的な自由化という最善の政策の選択に困難がある場合の次善の政策としてのみ地域経済統合を評価するだけでは不十分である。むしろ、そのような視角からの評価ではマイナスをもたらすとされる域内と域外の差別こそ、地域経済統合の本来の機能を反映するものであるからである。域内と域外の間の自由化速度の差という歪みが、すなわち特別な関係の構築が、いかなる利益を地域経済統合加盟国にもたらすかが問われねばならないのである。  資本移動の自由化が先行して進む今日のグローバリゼーション過程においては、特に途上国間の統合のケースでは、資本移動を統合加盟国に有利に歪める可能性、また域外国に対する交渉力の強化をもたらす可能性が重要である。前者は資本の獲得、投資先として選択される可能性を高めるものであるし、後者は流入するその資本を発展目的に合わせて誘導・規制していくための政策的余地を確保するために欠くことができない。時間非整合性の克服やシグナリングを通じて経済政策転換の信頼性を高めるという効果も大事なものであるが、NAFTAについてはそれが存在していると考えることが可能であるとはいえ、MERCOSURの場合は確かではない。
 今後、本助成研究で確認された以上のような地域経済統合の効果に着目して、研究を進展させていきたい。

結果発表
 1.結果発表の時期 2011年12月
  2.結果発表の方法 著書(共著書)

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