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電気産業の発展をめぐるオーラルヒストリー研究

社会システム学科学科 准教授 柴山桂太 他
研 究 成 果
 電機産業は戦後日本でもっとも成長した産業の一つである。一九六〇年代の高度成長期から、家電を中心に需要が増加、それに合わせていくつもの電機メーカーが規模を拡大した。一九七〇年代後半からは高い国際競争力を得て、その市場を世界に拡大して今日に至っている。だが電機産業の発展史についての研究は、まだ始まったばかりである。
 本研究は、シャープ株式会社で副社長を務められた桂泰三氏(本学OB)にインタビューを行い、シャープ社の歩みと、そこから見えてくる戦後日本の電機産業の発展史について記録を残すのが目的であった。ともすれば順調だったようにみえる戦後日本の経済史も、細かく見ればさまざまな危機をくぐり抜けてきた。こうした経営環境の変化で、どのような意志決定が行われたのか。そこにはどのような情勢判断があったのか。記録には残りにくい当事者の「判断」や「迷い」のプロセスを記録することに、本研究の意義があると思われる。
 全体を通して印象に残ったのは二つある。一つは、六〇年代後半から七〇年代前半にかけての「電卓」の開発競争が、シャープ社の発展のみならず日本の電子産業の発展にとって重要な意義を持っていたこと。もう一つは、日本企業が海外展開を進めていく上で、「為替」の動向が大きな影響を持ったということである。いわゆるデジタル革命への対応、そしてニクソンショック以後の世界経済の構造変化をどう見極めるか。桂氏が熱を込めて語ったのは、こうした歴史の大きな動向の見極めこそ経営判断でもっとも難しく、またもっとも重要であったという事実である。
 インタビューは全5回、20時間以上に及んだ。桂氏がシャープに入社した一九五〇年から、引退した一九九八年までの長期に及び、題材は白黒テレビの販売網をどう構築したかという話から、オイルショックへの対応、時に会社経営の本質に関わる話まで広がった。
 とりわけ海外本部長時代(一九七四年から一九八六年)と、副社長時代(一九八六年から一九九八年まで)のインタビューは、シャープ社の歴史の記録としてだけでなく、転換期における電機産業の最前線の記録として大きな意義を持つものとなるだろう。七〇年代のアメリカとの貿易摩擦(カラーテレビをめぐるダンピング訴訟)や、八〇年代以降の液晶・半導体をめぐる投資判断のお話はスリリングである。特に、当時はまだ未熟だった液晶技術への追加投資を決めた際の、「判断」と「迷い」の記録は、本研究の白眉をなす。
 桂氏には自らの経営判断の「結果」よりも、その判断を強いたマクロ経済の「状況」や、産業全体が直面している「課題」が何だったのか、率直に多くを語っていただいた。「何をしたのか」ではなく、「何を考えたのか」を記録するという目的は、一定程度達成できたと自負できる。毎回のインタビューとその準備に多大な労力を割いて頂いた、桂泰三氏にあらためて感謝を申し上げたい。

結果発表
 1.結果発表の時期 平成二三年度後半を予定
  2.結果発表の方法 ワーキングペーパーにて公表

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