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国際財務報告基準の制度性に関する研究

会計情報学科 准教授 山田康裕
研 究 成 果
 Suchmanによる正統性概念の分類をてがかりとして,IASB に求められている正統性とはいかなるものなのか,すなわちIASB が基準設定機関としての正統性を獲得するための要件は何なのかを明らかにし,IASB の正統性の問題点を検討した。その結果,先行研究においてはさまざまな意味においてIASBの正統性が論じられてきたが,性質(特徴),結果,手続,人,理解可能性(妥当性)という5つの点で,IASBの正統性を否定しかねない問題をはらんでいるということが明らかになった。
 第1は,性質(特徴)の正統性に関する問題点についてである。専門知識が性質(特徴)の正統性の源泉になることは,上述のとおりである。ここで看過されてはならないのは,その専門知識の内容である。1つの論点についても多くの見解があるように,専門知識も立場によって異なりうる。したがって,いかなる内容の専門知識を取捨選択するかによって,専門知識による性質(特徴)の正統性が担保されない可能性も否定できない。たとえば,特定の派閥に属する者が多く集まって偏った基準を設定した場合が,このケースに該当するであろう。
 第2は,結果の正統性に関する問題点についてである。「はじめに」でもふれたように,今次の金融危機によってIASBの正統性がゆらいでいる。これは,IFRSsの国際的に通用する上質な基準としての位置づけが疑問視されていることを意味している。したがって,これは,結果の正統性が問われていると考えられるのである。IASBが当該正統性を回復しうるか否かは,金融危機に対するIASBの対策の内容にかかっているといえる。また,EUにおけるカーブアウトも,IASBの結果の正統性に関して重大な問題を投げかけている。そもそもカーブアウトは,正規のIFRSsを採用するのではなく,EUの実情にあわせて基準の一部を取捨選択することを意味するが,これはIASBが作成した基準(結果)の妥当性を一部的であるにせよ否定するものである。この点において,カーブアウトは結果の正統性を棄損する可能性をはらんでいるといえる。
 第3は,手続の正統性に関する問題点についてである。IASBは,今次の金融危機への対策として基準を変更する際,従来のデュー・プロセスをへずして,意思決定をおこなった(IASB[2008])。これは,デュー・プロセスという手続の正統性を否定することに他ならない。深刻な金融危機に直面し,迅速に意思決定をおこなうためという大義名分は理解しうるものの,これはIASBの正統性をゆるがす問題をはらんでいるといえる。先行研究の多くの論者がIASBの正統性の源泉として手続に着目し,しかもデュー・プロセスに焦点をあわせていることからもわかるように,手続の正統性の棄損は,IASBの正統性にとって極めて大きな意味をもっているものと思われる。
 第4は,人の正統性に関する問題点についてである。IASBの現在の影響力を考える際,トゥウィーディー議長のはたした役割が大きいといわれることがある。これは,IASBが人の正統性を獲得していることを意味している。近々,議長の交代が予定されているが,当該正統性を保持し続けることができるか否かは,その人選にかかっている。議長の人選は,各国の利害が絡む極めて政治的な側面をもっているため,難しい問題をはらんでいる。
 第5は,理解可能性(妥当性)に関する問題点についてである。意思決定の透明性を高めるため,IASBのホームページでは,様々な資料が公表されていることは周知のとおりである。かかる資料は意思決定に至る論拠を明らかにしており,IASBが作成する基準の理解を促進するのに役立っている。すなわち,ホームページの各種資料は,理解可能性(妥当性)の正統性を獲得するのに貢献しているのである。しかし時として,古くなった資料はホームページのリンクから外され,入手不可能になる場合がある。これは,部分的ではあるものの理解可能性を阻害するものであり,IASBの正統性を棄損しかねない問題をはらんでいるといえる。
結果発表
  1. 結果発表の時期 2009年9月
  2. 結果発表の方法 「IASBの正統性」日本会計研究学会スタディ・グループ『会計制度の成立根拠とGAAPの現代的意義』(中間報告)31-48頁。
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