経済学部

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フランス自動車産業における生産システム・労働編成改革とワークライフバランス

経済学科 教授 荒井 寿夫

研 究 成 果
 本調査研究の当初のテーマは、私のここ二三年来の研究テーマである「フランス自動車産業における生産システム・労働編成改革とワークライフバランス」であったが、平成20年秋以降の金融危機を発端とする世界同時不況の勃発のもとで、フランス自動車産業もまた、厳しい販売不振、減産と下請け企業の経営危機それゆえ雇用危機に直面してきたがゆえに、訪問を許可してくれた自動車メーカー、ルノー社ドゥーエ工場労働組合からの対応もあり、渡航時点において調査研究テーマを「フランス自動車産業の現局面における雇用問題」と変更した。
訪問調査は、3月24日(火)午後、フランス北部ドゥーエ地区労働組合連合CGT事務所にて行われた。対応してくれたのは、ルノー社ドゥーエ工場労働組合CGT幹部、L.ポンシー氏とA.ドゥギーヌ氏の2名であった。当方からの事前の大まかな質問事項は、(1)ルノー社とりわけドゥーエ工場におけるこの間の減産状況と操業短縮について、(2)雇用の状況について、(3)賃金支払いの状況について、(4)労働組合CGTの方針について、である。
回答の要点は、以下のとおりである。
第1の減産状況と操業短縮については、2008年度の休業が70日間とりわけクリスマスから新年度にかけて4週間の連続休暇、そして新年度に入ってからは週3日稼働にあること。フランス語のchomage partielとは経営の操業短縮であると同時に労働者にとっては文字どおり部分的就業停止の強制であり、この間、仕事があるかどうかを労働組合と労働者は毎日、確認せざるをえない状況にあること。
第2の雇用の状況については、正規雇用については採用停止と事務部門で勧奨退職の措置が取られていること。非正規雇用については、派遣労働者の大部分が2007年の秋にすでに雇い止めされており、現在は数10名のみ残存の状況。
第3の賃金支払いについては、労働組合の賃金100パーセント保障要求にもとづくルノー経営者との企業中央レベルの団体交渉の最中であり、近々、労使協定が成立する見込みであること。その基本的内容は、国家が助成する部分的就業停止手当と企業が提供する同じ手当、次いで職制・幹部職員の企業の「連帯基金」への個別的「時間資本」の一部提供、そして労働者自身の「時間資本」の享受から構成される。ここで「時間資本」とは、事後的に休暇を獲得できる「時間貯蓄口座」のことである。
第4の労働組合CGTの方針については、雇用戦略として、雇用維持と賃金100パーセント維持そして引き上げ、労働条件改善のための新規採用実現のうえで経営者報酬・株主配当金の引き下げ、新車価格の引き下げ、海外生産の中止(環境技術開発による新車の国内生産確保含む)、等を要求していること。要するに、国民経済の再建に資する自動車メーカーの戦略として、労働者の雇用維持と購買力向上、利潤・利益の再分配、グローバル化の見直しを要求していること。
今回の調査研究の成果として、日本と同様、国民経済の基幹産業としてのフランスの自動車産業、その中心メーカーのひとつルノー社が、国家の支援(ただしあくまで借金)を得つつ、労使関係の枠組みのなかで、日本とは相当異なって、従業員の雇用維持と購買力維持したがって利益分配そして環境技術開発(電気自動車)によって国民経済の再建に関与しようとしていること。そして、企業にそのような戦略の採用に仕向けるのに、労働組合の雇用戦略の対置と要求が相当大きな役割を果たしていること。これらを確認できたことは、今後の世界同時不況後の自動車産業と国民経済の在り方を考える場合に一つの貴重な研究上の示唆を得られたように思われる。
最後に、このような貴重な調査研究の機会を与えていただいた陵水学術後援会に改めて厚くお礼申し上げる次第である。
結果発表
 1.結果発表の時期 平成21年度内
  2.結果発表の方法 『彦根論叢』ないし学外月刊誌への論文発表


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