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政府による財務報告に関する研究

会計情報学科 准教授 山田 康裕

 近年,地方自治体に対する企業会計手法の導入が盛んに議論され,またその実践も広く浸透しつつある。 その際,単式簿記や現金主義の欠点がその契機として指摘されるが,これらの欠点は何も近年になって生じたものではない。 すなわち,これらの欠点は近年の公会計改革の直接的な契機とはいえないのである。 本研究は,以上のような問題意識にもとづき,地方自治体の財務報告の目的およびその意義について考察したものである。
 総務省によれば,地方自治体による財務報告の目的として,意思決定に有用な情報の提供と公的説明責任とが措定されている。 まず意思決定に有用な情報の提供について,第1の利用者として想定されている市民が投票の際に自治体の財務報告に もとづいて意思決定をおこなうという前提に問題なしとしない。また,納税をもって,市民による資金提供とみなす点にも 無理がある。また公的説明責任についても,総務省が想定するような行政コスト計算書では,コスト(インプット)情報を 明らかにするにすぎず,説明の責任は果たしているものの受託した資源の効率的な利用についての説明は十分であるとは言い難い。 さらには,公的な説明責任の履行によって期待されているパブリック・ガバナンスについても, 市民は地方自治体に委託した資金の使途についてほとんど無関心であり,その使途について自治体にクレームをつけるということは 通常考えにくく,クレームを集めるための何らかの仕組みを構築しない限り,たんに財務情報を公表するだけでは パブリック・ガバナンスは期待できない。
 以上にみるように,総務省が想定しているような財務報告の目的は現状では果たされているとは言い難いのである。 にもかかわらず,近年,自治体において会計改革が積極的に進められてきている意義は何なのであろうか。 この点を考察するのに有効な視点を与えてくれるのが,制度化パースペクティブである。 すなわち,企業会計手法の導入は地方自治体にとって正当性の確保のための1つの手段なのである。 会計手法を改革することによって,地方自治体は財政再建に積極的な姿勢を示し,健全な組織であると見なされようと 努力しているのである。
 さらに,地方自治体の会計改革は強制的同型化とみなすことができる。多くの報告書や基準は総務省や内閣といった 権威から公表されたものであり,地方自治体における会計改革は,これらの報告書や基準によって方向づけられているためである。 そして,自治体が参考にすべきモデルとして公表された総務省方式は,企業会計手法の導入という方向性とは裏腹に 複式簿記の導入を強制するものではなく,「分離」とみなすことが可能である。
結果発表
  1.結果発表の時期 2008年3月,2008年度上旬
  2.結果発表の方法 ワーキング・ペーパー,雑誌『會計』


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