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金融不安定性の理論的研究

ファイナンス学科 教授 二宮健史郎

 Minskyはケインズ理論を再評価して資本主義経済に内在する複雑な金融構造が景気循環を引き起こすことを強調する金融不安定性仮説を提唱した。Minsky自身、投資の決定は「貸し手のリスク」や「借り手のリスク」に依存し、外部資金に依存する割合が大きくなるほど貸し手のリスク、借り手のリスクが大きくなり、金融構造が脆弱になると考えている。 本研究では、A)金融不安定性理論における利子論の検討、B)負債荷重を考慮した競争-独占混合モデルにおける金融不安定性、循環、金融政策の検討、を行ったが、主としてA)の研究課題に取り組み、同時並行的にB)の課題の研究も行った。
・A)について
報告者はこれまで貸付資金説に基づくマクロ動学モデルにおいて金融の不安定性を検討してきた。通常のケインズ派のマクロ動学モデルに導入されている金融部門は、通常のLM方程式である。しかしながら、通常のLM方程式は経済を安定化させるように作用しているため、金融の不安定性を検討する枠組みとしては適切ではない。また、LM方程式は、貨幣市場の均衡=債券市場の均衡、という資産市場のワルラス法則から導かれるものである。これは、ケインズの利子論である流動性選好説を構成する。 報告者は、貸付資金説に基づくマクロ経済モデル(IS-BB分析)は、「貸し手のリスク」と「借り手のリスク」の両方が利子率に影響を与えるということを定式化できるという点において、金融の不安定性を検討する枠組みとして優れていると考えている。そして、貸付資金説に基づくマクロ経済モデルは、財市場の超過需要+債券市場の超過需要+貨幣市場の超過需要=0、というワルラス法則から導かれている。 しかしながら、Tsiangは、a)今期得られるであろう所得(期待所得)は、今期の支出に用いることはできない、b)今期の消費、投資は今期の取引動機に基づく貨幣需要を構成する要因である、ということ想定し、資金制約式から、貨幣市場の均衡=債券市場の均衡、という関係を導出している。そして、流動性選好説と貸付資金説は同値であると論じている。 本研究では、ケインズ派のマクロ経済モデルとワルラス法則、金融不安定性に関する議論を概観し、その問題点を検討、考察した。本研究の成果は、既に「金融不安定性理論とワルラス法則」『彦根論叢』第364号、で公表されているが、その概要は以下のようなものである。まず、IS-LM分析を批判した置塩のIS-BB分析が貸付資金説に基づいていることを紹介し、IS-BB分析と金融不安定性理論の関連性について検討した。そして、Tsiangの議論を簡潔に紹介し、その基本的な考え方を維持しつつ、IS-BB分析の枠組みから、貨幣市場の均衡=債券市場の均衡、という関係を導出した。そして、その枠組みにおいても我々の金融不安定性の議論を定式化することが可能であることを示した。
・B)について
関連する過去の研究の改訂作業を精力的に進め、その成果は「寡占経済における金融の不安定性、循環と所得分配」という題目で『金融経済研究』第24号(日本金融学会誌)に掲載された。同論文は、今後の報告者自身の研究の重要なステップとなるものであると確信している。
平成18年12月には、これまでの研究成果をまとめた『金融恐慌のマクロ経済学』中央経済社(単著)を上梓することができた。同書の研究の一部は、陵水学術後援会の研究助成を受けて行われたものであり、本研究の助成とあわせて陵水会会員の皆様に心より感謝申し上げたい。
結果発表
 1.結果発表の時期 公表済
  2.結果発表の方法 『彦根論叢』第364号、『金融経済研究』第24号



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