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旧制高等商業学校における英語教育の位置と意義: 小樽高等商業学校における英語教育がもたらした社会的・文学的影響

社会システム学科 准教授 菊地 利奈

 実践教育を重視し、商業人を輩出することを目的とした旧制高等商業学校で、どのような語学教育がなされ、その教育成果はどのような形であらわれたのか。旧制高等商業学校のなかでも、特に語学教育を重視し、語学教育が充実していたと考えられる旧小樽高等商業学校に注目し、創立当時(明治43年)からの小樽高商の教育の歴史や理念を検証した。そのなかで、初代校長渡辺竜聖の留学経験をいかした教育理念や、ヨーロッパの商業系大学をモデルとした「実践教育」重視の基盤が築かれ、語学教育が重視された校風が培われていったことが明らかになった。また、渡辺の人脈や人望により、長期留学経験を持った教員が小樽高商に集まり、洋書(原書)をテキストにした講義などが開講され、学生には高度な語学力が要求されていたことも明らかになった。
 さらに、創立当時から大正末期までのカリキュラム、図書館資料、図書館蔵書(洋書)、学生新聞、校友会会誌などの資料を収集し、どのような洋書が、語学テキストや経済学の講義テキストとして使用されたかなどを検証し、当時の語学教育の様子と学生の語学能力のレベルを分析しているところである。資料収集は、主に小樽商科大学図書館、小樽文学館、潮陵高校記念館にて、平成19年1月と2月とにおこなった。現状としては失われている資料も多く、それらの失われた資料をどこまで収集できるかが今後の課題となるであろう。
 旧小樽高等商業学校の充実した語学教育の「成果」として、私がもっとも注目している点は、小樽高商が商業に特化した教育機関であったにもかかわらず、小林多喜二、伊藤整、高浜年尾などの文士を排出したことである。昭和初期の日本文壇に影響を与えたこれらの文人が、なぜ、高商から生まれえたのか。この三名が同時期(大正10年から13年)に在学していたことから、私の研究分析は、特にこの時期における小樽高商での語学教育にフォーカスをおいたものとなった。
 その結果、渡辺初代校長の教育理念をひきついだ第二代校長判房次郎のもと、大正期の小樽高商で語学教育が充実し、文学的校風が築かれていたことが解明された。大正12年度には、全教員のうちの12%(5名)をしめる外国人教員による語学授業がおこなわれ、全体の34%(14名)が語学教員であった。さらに、語学教員以外でも、講義で洋書を使用した教員もいたことが明らかになったため、小樽高商における外国語がしめる教育的位置は非常に高かったことが立証できた。このような外国語重視の校風から、シェークスピアやメーテルリンクなどの外国語劇の上演が学生によっておこなわれるようになり、学生や教員の投稿作品を掲載する文学的質の高い校友会会誌が誕生したことがうかがえる。そして、このような小樽高商の校風と教育のもと、小林多喜二は小説を、高浜年尾は和歌を、伊藤整は詩を、校友会会誌や文学雑誌を通して発表していったのである。昭和の文壇を担った文人たちを育てた基盤に、小樽高商の教育や教育理念が影響を与えたことが解明されたことには、文学研究上の意義がある。当時小樽高商の教員であった英文学者の小林象三や経済学者の大熊信行が、文学的才能豊かなこれらの学生にどのような影響を与ええたのかについては、今後の調査で解明したいと考えている。
上記の研究成果のひとつとして、平成18年10月に「伊藤整と『緑の国』」を発表し(日本アイルランド協会)、伊藤整が小樽在住時に執筆した詩における英語詩の影響について言及した。伊藤整文学において、小樽高商および小樽という街の存在は重要な位置をしめるため、今後、比較文学的視点や、小説の技法という視点からも分析し、文学研究として発展させていく予定である。
さらに、伊藤整と「社会」とのつながりを分析するため、平成19年1月から2月にかけて近代文学館にて、昭和初期の日本文壇と伊藤整の文学・社会活動について、資料を収集した。これらの研究成果のひとつのまとめとして、平成19年2月、滋賀大学経済学部におけるワークショップTexture in Cultural Backyardにて、「伊藤整と英語文学―小樽高商における外国語教育の影響―」を報告した。
結果発表
 1.結果発表の時期:
1)平成18年10月「伊藤整と『緑の国』」
2)平成19年2月「伊藤整と英語文学―小樽高商における外国語教育の影響―」
3)平成19年12月、あるいは平成20年9月
  2.結果発表の方法:
1)日本アイルランド協会会報誌
2)滋賀大学経済学部ワークショップ研究報告
3)日本アイルランド協会年次大会にて報告、あるいは
 EAJS (European Association for Japanese Studies) Conferenceにて発表


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