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監査報告書の拡充化に関する研究

会計情報学科 教授 笠井 直樹

 本研究の目的は,監査報告書の情報内容の拡充を企図した規制を対象に,実態調査や事例分析,企業の公表データ等に基づき当該規制導入による影響を明らかにすることである。当該規制は,監査プロセスの透明化を意図しており,従来よりも監査人によって監査報告書に記載される情報が拡充することにつながることが期待されている。当該制度の導入により(本格導入は2021年3月期の財務諸表監査から),監査人が財務諸表監査プロセスにおいて,特に重要と判断した事項を「監査上の主要な検討事項」(以下,KAM:Key Audit Matters)として監査報告書に記載することになる。
 筆者はこれまで,主に監査制度・規制が監査コストや監査品質に与える影響について研究を行ってきたが,本研究では,特に監査報告に関する情報内容の充実化に関する規制の導入による影響について,実態調査や公表データの分析を通じて検証を行う。
 まず,わが国におけるKAMの実態を把握するために,上場企業の開示状況や開示内容等について,各企業の有価証券報告書および監査報告書から関連情報を収集した。当該制度が本格導入された2021年3月期の分析からは,開示内容は多岐にわたるが,固定資産の評価・収益認識・のれんの評価等の項目が多く取り上げられる傾向にある実態が観察された。
 次に,開示実態の分析から得られた知見を参考に,パイロットテストとしてKAMの早期適用企業の特徴やKAMの導入による影響を公表データに基づき検証した。まず,2020年3月期から早期適用している企業を中心に,非早期適用企業と比較し早期適用企業の特徴等について分析を行った。また,KAMには,財務諸表監査プロセスにおける監査判断関連情報が開示されることが期待されているため,KAMの導入による監査コストへの影響および監査品質への影響とともに,投資家に対して監査報告書の情報価値を高めることを意図した施策であることから,株式市場へのインパクトについて分析を実施した。
 分析の結果,早期適用企業は非早期適用企業と比較して,企業規模が大きく機関設計や株主構成において特徴があることが観察された。また,早期適用企業のサンプルサイズが小さいことも起因して,監査コスト・監査品質・株価関連指標への影響を観察することはできなかったが,当該制度が本格導入されている2021年3月期以降のデータ(現在,関連データを収集中)を対象に分析を行うことにより,より明確な傾向が観察される可能性がある。差し当たり,実態調査としてこれまでに得られた分析結果をまとめ2022年度中に論文として公表する予定である。
 今回の研究プロジェクトでは,利用できるデータの制約もあり,あくまでパイロット調査として実施したが,新たなデータを収集することで,今後KAMの導入効果についてのより厳密な検証を行う予定である。今後の科研費申請も含め他の研究助成でも引き続き関連プロジェクトを継続し,データベースの整備を進め,より包括的な分析を実施できるよう環境整備に努める予定である。

結果発表

1.結果発表の時期 2022年4月~2023年3月
2.結果発表の方法 2022年度中にワーキング・ペーパー,学術雑誌等において公表する予定。


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