経済学部

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監査チームの構成および監査人の属性に関する研究

会計情報学科 准教授 笠井 直樹

 本研究の目的は,財務諸表監査を担当する監査チームの構成および個々の監査担当パートナーの属性の違いを公表データに基づき指標化した上で,監査結果である財務報告の品質,あるいは監査報酬等にどのような影響を及ぼすのか明らかにすることである。また,この両者の関係を分析するにあたって各企業のコーポレート・ガバナンスの特性を考慮する。
 本研究では,監査チームの構成および監査担当パートナーの特性といった,財務諸表監査業務を実際に担う監査責任者・監査チームのスタッフに関連するデータを利用し分析を行うことに主眼をおいているが,特に,監査チームの構成要員に関する公表データを用いて監査結果や監査報酬等への影響を明らかにする。
 近年米国において監査担当者名に関連するデータの開示が進んだことに伴い,公表データを用いて個々の監査担当パートナーの特性の違いが監査品質に及ぼす影響を明らかにする研究が国際的に進展している。しかしながら,こうした情報は現在のところ限られた国においてのみ公表されているにすぎず研究成果の蓄積が十分に進んでいるわけではない。
 そもそも実際に現場で業務を担っているのは監査責任者ではなく監査チームのスタッフ(シニア・アシスタント・その他の専門家等)であり,監査責任者も含めチームとして組織的に業務を担っているのが実態である。こうした実務上の観点は,昨今の規制当局や業界団体が活発に行っている議論にも反映されている。例えば,現在,各国の規制当局や業界団体から提案されている「監査品質の指標(Audit Quality Indicator)」においては,同指標の候補の一つとして監査チームメンバーの構成と経験について取り上げられており,監査品質に影響を及ぼす重要なファクターの一つとして認識されている。また,これまでの監査研究では,監査チーム単位での研究は実験研究やフィールド調査が中心であり,公表データを用いたアーカイバル研究はほとんど行われてこなかったという状況にある。
 わが国では従前より監査チームメンバーの構成に関するデータ(監査業務に係る補助者の構成に関するデータ)が開示されており,他の諸外国に比して多くのデータを利用できる状況にある。そこで,本研究では,監査チームメンバーの構成と監査責任者の特性(経験年数,業種専門性,クライアント・ポートフォリオ,性別,業務負担等々)とが監査結果,あるいは監査報酬等へどのような影響を及ぼすのかについて検証を試みた。
 しかしながら,監査チームメンバーの構成に関するデータについては,各企業の有価証券報告書から手作業で収集しなければならず,その量が膨大であるため,データ収集に関して当初の想定より大幅な時間を費やしてしまった。現時点では,限られた年度のデータしか収集できていないため包括的な分析を実施することができていないが,チームの規模やシニアスタッフと想定されるメンバーの構成比率が高い場合等,規模とともにスタッフの経験値や専門性が高いと想定される場合には,相対的に監査品質が高くなる傾向にあることが一部で観察された。さらに,追加分析を行い他のファクターを考慮したうえで分析結果を取りまとめ,2020年度中に論文として公表する予定である。
 今回のプロジェクトでは,データ・ベースの整備に大幅な時間を要したことから,今後の科研費申請も含め他の研究助成でも引き続き関連プロジェクトを継続し,データベースの整備を進め,より包括的な分析を実施できるよう環境整備に努める予定である。また,他の研究プロジェクトで計算していた監査責任者の特性に関する指標を活用し,チームメンバーの構成だけでなく監査責任者の特性を考慮することで監査チーム全体の特徴を捉えることができると考えられることから,今回のプロジェクトの成果をふまえ,監査業務に関するより包括的な研究プロジェクトに発展させる予定である。

結果発表

1.結果発表の時期 2020年4月~2021年3月
2.結果発表の方法 2020年度中にワーキング・ペーパー,学術雑誌等において公表する予定。


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