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新事業開発による企業進化の研究

企業経営学科 教授 伊藤 博之

 本プロジェクトの研究成果は大きく2点あります。
 第一に、「新事業開発による企業進化」に関する理論的なフレームワークについての文献研究を進め、経営戦略論で近年注目を浴びている「両利き経営」の本格的な文献レビューを実施しました。「両利き経営」とは、守りと攻め、伝統と革新、既存事業(技術)の深耕と新しい事業(技術)への探索という、一見すると矛盾する経営を同時に実施する経営であり、組織学習、戦略プロセス、コーポレート・ベンチャリング、組織革新などの諸研究の成果を応用した研究がその研究に応用されています。本年度、これらの関連分野を含んだ数百の論文レビューを実施し、その成果を滋賀大学経済学部研究年報(2018年11月号)に論文として掲載しました。
 そこでの要点は、「両利き経営」の要諦は、第一に、パラドックスの経営であるということ、第二に、経営者の役割がカギとなるとともに、経営者及びその経営チームの前任者から経営の継承と革新が分析の焦点となるべきことを論じたことでした。
パラドックスはジレンマと異なり、二者択一の選択ではありません。パラドックスでは矛盾を両立させる必要があります。また、経営の継承と革新は両利き経営の研究ではほとんど議論がされていないことも論文のレビューで確認し、それらを解明するために、継承研究という領域の文献レビューもある程度実施しました。それについては現在、ヒューレット・パッカード社の事例も作成中です。
 第二に、「新事業開発による企業進化」に関する代表的事例として米国の3M社についての事例研究を実施しました。同社についてはこれまでも研究を継続しており、過去に2冊の共著を出版していますが、今年度は、補助金を得ることで、これまで入手困難であった同社の過去のアニュアルレポートを入手し、これまで未解明であった同社の歴史の細部に分析を展開しました。これらの資料を駆使することで、これまであまり研究ができていなかった同社の財務状況や工場の展開などを分析に加えるとともに、経営の時時刻刻の動向をより詳細に把握するための分析を進めました。そこでの特筆すべき発見としては、これまで同社はイノベーションを経営の中軸に据えてきたとされてきましたが、同社のアニュアルレポートの分析からは同社でイノベーションという言葉が強調され始めるのは1980年ころからで、それ以前は多角化がむしろ強調されていたことが分かったことです。その含意については現在より広範囲な資料との関係から考察を進めています。なお、3Mについての研究は今後予定している科研でも調査を継続する予定であり、今回の陵水学術調査・研究助成金のご支援による研究は昨年度の科研申請の土台伴っております。

結果発表

1.結果発表の時期
 本研究の経過報告として下記をまとめた(2018年11月刊行)。また、継承プロセスについてのヒューレット・パッカード社の事例については学会誌への投稿の準備をしている。さらに、3M社の事例については次年度中にワーキングペーパーを1本作成するのを出発点に継続的に論文をまとめていく。
伊藤博之(2018)「道具箱としての両利き研究―企業の持続成長の理解のためにー」『滋賀大学経済学研究年報』25巻、29~47頁。
2.結果発表の方法
 既述のように、既に大学紀要に1編の論文を掲載している。今後も紀要とワーキングペーパーで成果をまとめながら、学会誌への投稿を図る。3Mの事例については最終的には書籍化を目的としている。

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