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ガバナンス構造と監査の質との関係が実体的裁量行動に及ぼす影響に関する実証研究

会計情報学科 准教授 笠井 直樹

 本研究の目的は,各企業におけるガバナンス構造と財務諸表監査を担う監査人の提供する監査業務の品質との関係が,経営者による裁量行動にどのような影響を及ぼしているのかに関して実証分析を通じて明らかにすることである。本研究は,企業のガバナンス構造,財務諸表監査を担う監査人,経営者の特徴や行動を代理する複数の指標を用い,これら3者間の関連性を同時に検討することで,これまでの先行研究に対して追加的な証拠を提示できる可能性があり,コーポレート・ガバナンス研究および監査研究分野において重要な貢献がある。昨今,特に東芝事件等によりコーポレート・ガバナンスおよび監査業務の実効性の問題が再び社会的に注目を集めている。しかしながら,当該テーマに関する定量的な研究は,国際的にも十分に進展しているとはいえない,その意味で学術的にも社会的にも有用な研究である。
 本研究では主に株式所有構造に着目し,特に近年わが国の市場において大きな影響力をも持つようになっている外国法人株主の存在が企業行動に及ぼす影響に焦点を当てて分析を行った。また,財務諸表監査の品質を代理する指標として主に監査報酬および業種専門性等の指標を利用し,外国法人持株比率の高い企業がどのような特徴を持つ監査人(財務諸表監査の品質)を選任し,いかなる機関設計を行い,こうした経営者・ガバナンス構造・外部監査人の3者間の相互作用関係によって,最終的なアウトプットとしての財務報告の品質にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを試みた。
 分析の結果,外国法人持株比率の高い企業ほど財務諸表監査の品質が高く,また,少なくともコーポレート・ガバナンスに関する機関構造の特性を見る限り,ガバナンスの品質が高いと評価される企業である傾向にあり,最終的に財務報告の品質が高い企業であることが確認できた。これは,外国法人株主の多くが機関投資家であり,専門家として投資先である企業のガバナンス構造を注視したうえで,経営者に対して財務報告の品質を高めるように求めているというストーリーが想定されるが,そもそもそのような企業を事前に選別し投資を行っていることも当然ながら想定されるため,この両者を識別するための分析も併せて実施した。
 また,本研究では特に,財務報告の品質を代理する指標として,主に経営者による実体的利益調整行動を測定する指標を利用している。これまで多くの先行研究で利用されてきた会計的利益調整行動とは異なり,外部の利害関係者にとっては(会計的利益調整行動に比して)より発見可能性が低く,さらに,外部監査人にとっても発見が困難でありかつ会計的利益調整行動よりも摘発するインセンティブが小さいことから,財務諸表監査の品質とは明確な関係性が見出せない可能性も事前に予想していた。分析結果として,頑健ではないが全般的には外国法人持株比率の高い企業ほど財務諸表監査の品質が高くなる傾向が確認された。また,アメリカを対象にした先行研究では経営者による実体的利益調整行動をビジネス・リスクの一つとして捉え,こうしたリスクの高い企業ほど監査報酬が高い傾向にあり,外部監査人が当該リスクに対処している傾向が示唆されているが,わが国では同様の傾向が見られないことも確認できた。
 本研究は,財務諸表の作成プロセスに関連する様々な要因について分析を行っていることから,分析結果の解釈には注意を要するが,今回得られた知見を基に分析手法を更にブラッシュアップし,国際的に評価の定まったジャーナルへ投稿を行う予定である。

結果発表

1.結果発表の時期 2018年6月-12月。
2.結果発表の方法 下記のとおり研究成果の一部を2018年7月頃に公表する予定である。他にも2018年度中に本学ワーキング・ペーパー等において研究成果を公表する予定である。
Kasai, N. 2018. The Combined Effects of Long Audit Partner Tenure and Audit Fees on Audit Quality: Evidence from Japan.『国民経済雑誌』218(1),近刊.


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