経済学部

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複雑な税制を伴う経済における財政の維持可能性について

ファイナンス学科 准教授 近藤 豊将

 近年、多くの先進諸国では、政府債務が累積しており、財政運営上の大きな制約となっている。特に我が国では、政府債務の対GDP比率は第2次世界大戦中をも上回る水準に達しており、その維持可能性が疑問視されるに至っている。今後、進行する少子高齢化社会をにらみ、限られた財源から、いかに累積債務問題を克服していくかは国家の喫緊の課題である。
 財政の維持可能性を主題とする学術研究は多く蓄積されている。財政の維持可能性を担保する政策ルールについてもBohn のルールとして知られるものなどがある。これは、政府債務の対GDP比率が上昇したならば、プライマリーバランスの対GDP比率を改善せよ、という直感的にもわかりやすい政策ルールである。反面、Bohnのルールを前提とすると、特定の政策がどのように財政の維持可能性を高めるのか、または低めるのかは見えにくくなるきらいがある。
 そのような中で、筆者のこれまでの研究では、財政が維持可能となる政府債務の対GDP比率の上限を導出し、それが政府の政策にどのように依存しているかを明らかにしてきた。ただし、そこでは、技術的な限界から所得税や消費税などの複雑な税制や実物資本の存在などが考慮されていなかった。  本研究では、労働所得税、利子所得税、そして消費税などの複雑な税制を考慮し、それらが財政の維持可能性にどのように影響するかを研究した。これらの効果は同一ではない。例えば、利子率は政府債務の膨張速度と直接関係するが、利子所得税は政府が債務者に支払った利子の一部を税として取り返すという面があるため、政府債務の膨張速度を抑制する効果がある。消費税や労働所得税にはそのような面はない。また、特に我が国では、現在、消費税の引き上げが話題となっているが、消費を刺激するような政策は、消費税収入の増大につながるため、消費税が財政の維持可能性に果たす効果を上昇させるという面がある。この点で、消費税は、労働所得税や利子所得税とは財政の健全性に及ぼす影響は異なる。
 このように、多様な租税システムを明示的に考慮して財政の維持可能性を研究する意義は、近年、とみに増してきている。本研究は、マクロ財政理論の立場からこの種の研究の進展に寄与しようとするものであり、学術的にも現実的にも極めて意義深いと考えている。
 本研究では、比較的扱いやすい動学的一般均衡モデルを援用して、2編の論文を作成した。論文1では、消費税率を1%増加させることが労働所得、財政の維持可能性を保つうえで税率何%に対応するか、という問題を考察した。この論文は、幸いにも、査読を経て、ヨーロッパから刊行される専門書の1章として収録されることになった。論文2では、財政の維持可能性を保つうえでの消費税と所得税の相互効果を分析した。消費税率の上昇は、所得税が税制の維持可能性を上昇させるうえでの限界効果を増加させることなどを示した。この論文は、海外の一流雑誌に投稿したものの、掲載を勝ち取ることはできなかった。今後は、これまで寄せられたコメントを基に修正を重ねて、他の雑誌への掲載を目指す予定である。
1."Sustainability of Public Debt in an AK Model with Complex Tax System", Atsumasa Kondo, forthcoming in B. Bokemeier and A. Greiner eds. "Inequality and Finance in Macrodynamics", in the Series "Dynamic Modeling and Econometrics in Economics and Finance" (Springer).(査読付き)
2."Interconnection of Fiscal Policies on Sustainability of Public Debt", Atsumasa Kondo, CRR Discussion paper A20.(査読なし)

結果発表
1. 結果発表の時期
上記論文1を2017年5月に公刊予定。論文2については、滋賀大学リスク研究センターのディスカッションペーパーとして公刊済み。
2. 結果発表の方法
上記論文1にいついては、専門書を刊行。論文2については、滋賀大学リスク研究センターのディスカッションペーパーにしており、今後、専門誌に投稿予定。



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