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複数の国際経済紛争処理手続きが並立するときの調整のための法理・手法

社会システム学科 准教授 坂田雅夫

 現在世界規模での自由貿易を進める交渉の場である、WTOドーハ開発アジェンダは交渉が停滞しており、事実上妥結の見込みが立っていない。また海外投資保護についても、OECDが進めた世界規模での投資保護条約は1998年に交渉が無期延期されており、現状で近年中での成果の見込みはない。世界規模での経済交渉が停滞している理由は、いわゆる途上国が団結して、単純な自由経済ではなく、自らに有利な特別待遇を求めている事が指摘される。また途上国グループの中でも中国やインドといった既に経済力を持った国もあり、途上国グループの意見を軽視できなくなってきている事も指摘される。 世界規模での経済交渉が停滞する中、諸国は少数の国の間で、自由貿易協定や投資協定を締結し、WTOプラスの経済自由化を進めようとしてきている。今日、このような個別の自由貿易協定や投資協定が積み重ねられてきており、世界規模での経済交渉への熱意は諸国の中で少なくなってきた感もある。
 しかしながら、このような個別の国の間で自由貿易協定や投資協定を締結していく方式には、法的には深刻な問題が控えている。それは紛争処理手続きの並存問題である。現在、世界各国は多数の自由貿易協定や投資保護協定を締結している。これらの国際協定には、国家対国家の裁判手続きや、私人が外国国家を直接に相手取って仲裁裁判手続きなどが紛争処理手続きとして定められている。さらに通常の国内裁判所における手続きも数多く利用されている。かかる紛争処理手段の多様化の結果、同じ事案に関して、同一の当事者が複数の訴訟手続きを並行して利用する、又は同一の事案に複数の被害者が並行して訴訟を提起する事態も出現している。たとえば、2001 年に相次いで裁定が下されたLauder v. Czech Republic 事件とCME Czech Republic B.V. v. Czech Republic 事件では一つの問題に対して、被害会社であるCME 社がオランダ・チェコ間の投資協定に基づき、さらに被害会社の株主であるLauder がアメリカ・チェコ間の投資協定に基づきそれぞれ仲裁付託を行った。またアルゼンチンの経済危機にかんしても、アルゼンチンの政策変更に伴う同様の被害を被った多数の被害者が、個別に仲裁や各国の国内裁判所を利用する訴えを提起した。その訴えに対して、多数の仲裁や国内裁判所が様々に異なる判断を下して、混乱を招いている。国内裁判所、国際仲裁、そしてWTO手続き、これらの手続きをどのように調整すればよいのだろうか。
 かかる問題意識の元で、平成28年度は投資協定上の仲裁と国内裁判所の手続きの調整について検討を試みた。かつて平成23年に国際法学会東西合同研究会において「投資協定仲裁における国内救済前置の動向」について報告したことがあったが、そこでの研究枠組みに基づき、最近の仲裁事例を分析した論文を彦根論叢に投稿するべく準備をしていた。しかしながら、この論文は次の理由から未だに公刊できていない。昨年の国際法学会において関連する報告があり、そこで近年の投資協定の条文分析がなされていた。私の研究は、そこで国内法(または国内裁判所)がどのように位置づけられているのかを分析したものであったが、投資協定の条文そのものに近年新たな動向があることをしり、その動向についても分析を加える必要性を感じたからである。あらたに条文の分析を加えた研究を遂行し、その成果については平成29年度国際法学会研究大会に「投資協定における国内法の位置づけ」と題する報告を応募し、採択されている。
 また国際・国内の訴訟手続きと、WTOの紛争処理手続き関係についても研究を開始し、昨年11月 26日に京都大学国際法研究会においてJurgen Kurtz, The WTO and International Investment Law : Converging Systems (Cambridge University Press, 2016)を書評する報告をおこなった。

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