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都市内分権のなかの熟議と代表制デモクラシーの関係をめぐる研究

社会システム学科 教授 宗野 隆俊 
 今日、自由市場経済と代表制デモクラシーを標榜する先進国において、政治的なものに対する反感、さらには公共のことがらに対する無関心が増大しつつあることを、多くの論者が指摘している。また、民意に対する代表制デモクラシーの応答可能性の低下が言われる一方で、デモなどの直接的な行動やソーシャルメディアなどをデモクラシーの可能性を拓くものとして称揚する見方もある。代表制デモクラシーに対する信頼の動揺が、先進国に共通して生起しているといってよい。
 本研究は、「都市内分権」「熟議」をキーワードにして、これらがいかにして代表制デモクラシーに対する信頼の回復に寄与しうるかを問う研究である。将来わが国との国際比較研究を行うことを念頭におき、本研究では、アメリ力合衆国オレゴン州ポートランド市の都市内分権制度を研究対象とした。
 研究は、主に、以下の2つの手法で行われた。
 (ア)都市内分権ならびに熟議についての、主に英米圏の新しい研究動向を把握し、主要な論点を把握する。
 (イ)ポートランド市の都市内分権制度が実際にどのように機能し、熟議がいかにして行われているのかを、現地での聴き取り調査をつうじて検証する。
 上記の(ア)と(イ)をつうじて、現時点で以下の知見を得ることができた。
  (1)ポートランド市は、約60万人の人口を擁するオレゴン州最大の都市である。市内を95の区域に分け、それぞれの区域に「近隣のアソシエーション」と呼ばれる民間団体を1つずつ認証し、これを市政府と市民を媒介する‘なかぱ公的な組織'として位置づけている。また、近隣のアソシエーションを支援する機関として市内に7つの「地区連合」を認証し、1つの地区連合が10から20のアソシエーションに対しするさまざまなサポートを行っている。
  (2)近隣のアソシエーションは、近隣のなかで生起するさまざまな社会的課題(ホームレスの増加、交通混雑の増大など)を定例の公開集会で議論し、そこで議論されたことを市政府の関連部局に直接伝達し、あるいは地区連合をつうじて市政府に働きかけることもある。たとえば、大気汚染物質の問題などはアソシエーションと地区連合で何度も議論され、それがポートランド市の環境政策に関わる複数の部局にアジェンダ(政策課題)として伝達され、あるいは大規模な住民集会の開催につながるなどして、市の公共政策に小さくないインパクトを与えることがある。公共的なことがらをめぐって(しばしば意見を異にする)市民が議論を重ね、一定のコンセンサスが形成される場合には、公共政策にも一定程度の影響を与えうるのである。
  (3)他方で、アソシエーションに参加する住民は市民のなかのわずかな比率をなすに過ぎない。また、アソシエーションに参加する市民の属性(人種、性別、世代、住宅所有者/賃借入)に偏りがあるため、アソシエーションで議論されることがらの射程が狭くなりがちである。
  (4)市政府の部局の構造は複雑であり、アソシエーションや地区連合から提案されたアジェンダがただちに市政府の政策課題として採用され、政策に反映されるわけではない。
  上述のように、本研究をつうじて、ポートランド市の都市内分権のしくみの概要を把握することに努めた。また、市民がいかにして私生活の領域を超える公共のことがらに接近し、他の市民と熟議を重ね、一定のコンセンサスを市政府に伝達しようとしてきたのかを垣間見ることができた。他方で、ポートランド市の都市内分権制度は大きな課題に直面しており、これをいかに乗り越えるかが関われている。この問題は、私自身の研究課題として、平成28年度以降は科学研究費補助金などの外部競争資金を活用して追究したい。

結果発表
 1.結果発表の時期 
    平成28年度7月9日・10日
  2.結果発表の方法 
    コミュニテイ政策学学会大会での研究発表ならびに学会誌への論文掲載


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