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組織再編の差止制度-情報開示手続の問題-

特任准教授 藤田 真樹 
 平成26年6月27「会社法の一部を改正する法律案」が可決成立し、平成27年5月1日施行された。今回の改正会社法では、略式組織再編以外の組織再編によって現金を対価に締出される(キャッシュ・アウトされる)株主に対する新たな差止請求制度について導入された。
 キャッシュ・アウトは、典型的なものとして、MBO(Management Buy Out)を始めとする上場会社の株式の非公開化の過程において用いられる。すなわち、株式公開買付を通じて対象会社の支配権を掌握した買付者が(第一段階取引)、(1)直接現金を対価とする方法、(2)株式交換によって端数を生じさせる方法、(3)対象会社を種類株式発行会社に定款変更をした上で全部取得条項付種類株式を取得し端数を生じさせる方法を用いて行われる(第二段階取引)。
 組織再編における事後的な救済手段としては、組織再編を承認した合併無効訴訟、株主総会決議の取消しの訴え、反対株主の会社に対する株式買取請求、裁判所に対する公正な価格の申立てが設けられていた。しかし、事後的な合併無効訴訟等を求めることは、法律関係を複雑・不安定にするおそれがあるため認められにくい。また、株式買取請求権等を行使するには、事前に会社に対する組織再編に対する反対の通知を行い、株主総会で反対票を投じる手続きを経ることが必要であるが、対価が不当であることを知らずに株主総会で投票してしまった株主は株式取請求権を行使できないという問題があった。
 一方で、事前の救済手段としては、略式組織再編の差止めを除いて明文で規定されていなかった。そのため、改正前会社法において、組織再編によって、主として不当な対価でキャッシュ・アウトされる株主を事前に保護するため、解釈法学上、様々な手法が主張されていたが、これらの手法は、組織再編の差止を直接的な目的とした制度でないことから、現行法の下では、認められないとする否定説が強く、事実上困難であるとの指摘があった。
 そこで、今回の改正では、全部取得条項付種類株式の取得、株式の併合、略式組織再編以外の組織再編が法令または定款に違反する場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は会社に対して、その差止を求めることができるとする制度が明文で設けられた。
 一般に、キャッシュ・アウト取引において、問題となるのは、以下の点である。第一に、支配株主が存在すれば少数株主との間の利益が対立するが、組織再編の文脈においては、本来は経営の専門家である取締役等経営者の地位が、支配株主の地位と一致し、自己取引類似の構造をもつ。とすれば、取締役等経営者は、少数株主のキャッシュ・アウトを伴う組織再編において、いかに行動すべきかが問題となる。また、組織再編が二段階取引によって行われる場合、第一段階の株式公開買付において株式を売却しなかった株主は、第二段階取引において第一段階取引よりも不利に取扱われる可能性があるという強圧性の問題がある。さらに、取締役等は、対象会社の株価に影響を与える重要な非公開情報にアクセスすることによって、キャッシュ・アウトの算定根拠を提示する等、支配株主と少数株主の間に情報の非対称性の問題も存在する。
 これらの問題は、新たに導入された組織再編の差止制度の文脈においては、(1)善管注意義務・忠実義務は誰に向けられており、どのような内容か、(2)行使要件の法令違反の「法令」に、善管注意義務・忠実義務が含まれるか、(3)価格の当・不当を巡って、組織再編の差止が認められるか、(4)「法令」に含まれる情報開示規定の範囲に関する解釈論上の問題に繋がる。
 本研究では、新たに導入された組織再編の差止制度に関するこれらの問題について考察するため、既に組織再編について議論の蓄積があり、米国の公開会社の多くが準拠法としているデラウェア州を中心とした米国の判例理論等について概観した上で、わが国の組織再編の差止制度の立法経緯について整理をし、改正法で導入された組織再編差止制度の行使要件に関する問題点を確認した上、改正会社法で導入された組織再編の差止制度に関する私見を提示した。

結果発表
 1.結果発表の時期 

  2.結果発表の方法 
    法政研究82巻2/3号


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