経済学部

TOP研究と社会連携経済学部研究情報陵水学術後援会学術調査・研究助成による研究成果陵水学術後援会学術調査・研究助成による研究成果H26 ≫ 長期の視点による金融不安定性の理論的研究

市区別パネルデータを用いた住宅地地価形成と金融政策に関する実証研究

ファイナンス学科 教授 二宮 健史郎
 本研究の目的は、ミンスキーの金融不安定性仮説を数理モデルに展開した諸研究をもとに、長期の視点から近年積極的に研究が行われているカレツキアン・モデル、金融化を検討した諸研究のサーベイを行い、金融構造の脆弱化、金融不安定性、金融的循環、経済成長に関する基礎的な理論的研究を行うことにある。金融不安定性仮説は、サブプライム危機に端を発した世界的な金融危機により、クルグマン等からも称賛されている。本研究では、下記の発表済業績に示すようにDiscussion Paper、査読付論文として4編の論文を公表した。計画通りに研究を推進し、当初計画を上回る成果を公表することができたと考えている。
 論文(1)は、近年、積極的に研究が行われている、[1]カレツキアン・モデルに金融的要素を導入した諸研究、[2]金融化を検討した諸研究、[3]ストック・フロー・コンシステント(SFC)モデル、[4]ニュー・コンセンサス(NC)・マクロ経済学を検討した諸研究、等のサーベイ論文であり、諸モデルの特徴、これまでの金融不安定性分析の理論的研究との類似点、相違点を明らかにした。このサーベイ論文を基に、以下の3つの論文において、金融の不安定性、循環を理論的、実証的に検討した。
 論文(2)では、金融化の進展に鑑み、先行研究では殆ど考慮されることのなかった金融資産の動態を導入し、所得、負債荷重、金融資産からなるケインジアンのマクロ動学モデルを構築して、金融の不安定性、循環を検討した。本稿の特徴は、中央銀行、市中銀行、企業、家計のストック・フロー関係を考慮し、そこから債券市場で利子率が決定する式が導出できることを示し、その関係から負債荷重の動態に加えて金融資産の動態を導出していることにある。さらに、長期の視点として「確信の不安定性」を考慮し、金融の不安定性、金融的循環の検討を行った。
 論文(3)では、クレーゲルの主張をモチーフに理論モデルを構築し、実証分析でその主張を検討した。クレーゲルは、ミンスキーが提示した「安全性のゆとり幅」という概念に着目し、金融脆弱性とは銀行家が多幸症や過度の楽観主義を伴うことなく、ゆるやかに知覚できないほどに安全性のゆとり幅が縮小することであると説明している。そして、サブプライム危機においても安全性のゆとり幅は減少しているが、安全性のゆとり幅は最初から不十分なシステムであり、伝統的なミンスキー的不安定性とは異なると主張している。本稿では、確信の不安定性を考慮したマクロ動学モデルを構築し、構造VARモデルにおいてアメリカ経済では、90年代後半以前の方がミンスキー的な金融脆弱化のメカニズムが働いており、むしろ90年代以降はそれが消滅していると解釈することができた。この結論は、クレーゲルの主張を側面から支持するものであると考えられる。
 論文(4)では、金融不安定性仮説を数理モデルに展開した諸議論をもとに、有利子負債、確信の動態等を考慮したマクロ動学モデルを構築し、金融の不安定性、経済の循環を検討した。本稿では、経済の不安定化には、有利子負債の累積的拡大、経済の金融構造の脆弱性、確信の不安定性、が重要な役割を果たしていること示している。逆に言えば、この3つの点を回避することが、経済の安定化にとって重要であるということを示唆している。つまり、確信の不安定性の高まりに対しても頑健な金融構造を構築することが重要であるということである。そして、それを構築するためには何がしかの政策や制度的枠組みが必要不可欠であり、経済の金融構造が安定的であれば市場メカニズムもまた有効に機能すると考えられる。
 尚、論文(4)は、経済理論学会学会誌『季刊・経済理論』に査読を経て掲載されている。また、他の論文についても、国際的学術雑誌等に投稿審査中、または投稿予定である。英文校閲には費用がかかり、その助成制度をつくることを要望したが実現していない。本研究助成が無ければ、英文論文の公表は非常に困難なものとなっていたであろう。この場をお借りして、陵水会会員の皆様には心より感謝の意を表したい。本助成で得られた研究成果は、学部、大学院の教育にも還元し、有為な人材の育成にも努力していきたいと考えている。

結果発表
 1.結果発表の時期 
    発表済


  2.結果発表の方法 
  1. )「長期の概念とポスト・ケインズ派金融不安定性分析の展開:展望」CRR Discussion Paper J-49, Faculty of Economics, Shiga University, 2014.6.
  2. )“Debt Burden, Wealth and Confidence,” CRR Discussion Paper B-12, Faculty of Economics, Shiga University, 2014.8.
  3. )“Structural Change and Financial Instability in the US Economy,” CRR Discussion Paper B-13, Faculty of Economics, Shiga University, 2014.9. (with Masaaki Tokuda)
  4. )「負債荷重、確信、金融の不安定性と循環」『季刊・経済理論』第51巻第4号, pp.83-95, 2015.1. 【査読有】
 この他、1編のDiscussion Paperを15年度の早い時期に公表する予定である。


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