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市区別パネルデータを用いた住宅地地価形成と金融政策に関する実証研究

経済学科 准教授 得田 雅章
 住宅価格変動に関して多くの研究者が用いているファンダメンタルズ・モデル(自己相関項、誤差修正項、同時点調整項から成る)をパネル分析に適用した。実証分析の結果から、先行研究との比較ならびに金融政策の観点から検討を行った。
 ファンダメンタルズ・モデルに基づく地価の理論値が、実際の住宅地地価並びにその変動をどの程度説明できるかについて、共和分分析の手法を援用し実証的な検証を行った。その際、従来の先行研究に比べ推計精度を向上させるため、クロスセクションの単位エリアをより細分化し、市区別のパネルデータを構築した。地価データ以外についても、市区別のパネルデータを構築するに際し、数々の観測されないデータがあることに対しては、代理変数を用いることや、GISを活用した位置情報からデータを作成したりすることで対応した。
 パネル共和分分析の結果、ファンダメンタルズ・モデルによる長期均衡関係が確認された。長期均衡地価の形成に大きく寄与していたのは、レントの代理変数としての課税対象所得と、自己実現的なバブル生成の可能性を包含する将来地価に対する期待、それと実質金利であった。求められた長期均衡地価からの短期的な変動は、中核的な都市部の市区で比較的顕著に表れたが、必ずしも都道府県庁所在地とは限らなかった。
 さらに、長期均衡地価からの乖離を修正するメカニズムを内包したECM型の地価関数をパネル推計することで、短期動学的な観点から地価変化率の構成要因を探った。いくつかのモデルを検証した結果、理論地価と実際の地価は、短期的に乖離したとしても次年にはその6割程度が均衡地価の方向に収束することが示された。この結果は、先行研究とかなり一致するものであった。
 短期動学の検証のために用いたほとんどの変数は、モデル毎のパラメータやその有意性が不安定であり、限られた影響度しか示さなかった。一方で、人口動態変数のパラメータはどのモデルにおいても有意かつ大きな影響を示すものだった。今世紀初頭に日本の総人口がピークアウトしてしまった現状を鑑みるに、今後、このような地価関連モデルにおける人口動態要因の位置付けが一層クローズアップしていくものと考えられる。
 なお、追加分析を含む全ての長期均衡地価関数およびECM型地価関数で、加重平均地価よりむしろ単純平均地価によるモデルが支持された。地価の変動期における対マクロ経済インパクトを適切に評価するために考案された加重平均地価であるが、本稿での対象が7期(2006年~2012年)と若干短く、変動期を十分に取り込めなかったのかもしれない。
 今回は自身の2012年に発表した研究に比して、クロスセクション方向に大きく拡大したパネルデータを用いた。今後はデータ整備のより効率的なシーケンスを確立したうえで時系列方向にも拡張させ、バブル期を含めたより長期にわたる実証分析を模索していきたい。なお、クロスセクション方向での派生分析として、観光の側面に焦点をあてた下記論文1を発表したことを申し添えておく。

結果発表
 1.結果発表の時期 
  • (論文1)得田雅章、『彦根市観光に関する一考察~ 首都エリアからの観光客誘致効果~』滋賀大学社会連携研究センター報No.2, 2014, pp.84-96.
  • (報告1)得田雅章、『市区別パネルデータを用いた住宅地地価形成に関する実証分析―全国市区データを用いて―』、ポスト・ケインズ派経済学研究会、2014 年6 月21 日、於:京都大学
  • (論文2)得田雅章、『市区別パネルデータを用いた住宅地地価形成に関する実証分析 ―全国市区データを用いて―』滋賀大学経済経営研究所WORKING PAPER No.215, 2014, pp.1-35.
  • (論文3)得田雅章、『不動産価格と実体経済 ―住宅地地価に関するファンダメンタルズ・モデルの妥当性―』滋賀大学経済学部研究年報 第21巻, 2014, pp.45-65.


  2.結果発表の方法 
 ポスト・ケインズ派経済学研究会における研究報告、および本学経済学部ワーキングペーパーおよび紀要としての論文は上記時期に発表済み。さらにブラッシュアップさせたものを学外ジャーナルに投稿予定である。


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