経済学部

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経営者による利益マネジメントとコーポレート・ガバナンスとの関係についての実証的研究―外部監査の観点を中心に―

会計情報学科 准教授 笠井 直樹
 本研究では主に,経営者による利益マネジメント行動が企業固有のコーポレート・ガバナンスの仕組みによって抑制されるのか否かについて公開データを利用して検証することを目的とする。特に,かねてより指摘されている融資および株式所有を通じたメインバンクによる企業の規律付け行動だけでなく,財務諸表監査を通じた公認会計士による外部監査が企業固有のコーポレート・ガバナンスの仕組みとどのように連携し,あるいは連携せずに,結果として経営者の利益マネジメント行動にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにする。
 本研究課題は,わが国固有の企業を規律付ける仕組みに関する分析だけでなく,これまではほとんど考慮されてこなかった財務諸表監査を担う外部監査人の役割を新たに分析に加えることで,コーポレート・ガバナンス研究と財務諸表監査研究の成果を結びつけるものであり,学術的に重要な成果を上げることが期待される。
 まず,分析に必要なデータを収集することから取り組んだ。主に,日経NEEDS Financial QUESTデータ・ベースから経営者による利益マネジメント行動を代理すると想定される種々の指標を先行研究に基づき推定し,併せてコーポレート・ガバナンスを代理すると想定される指標についても変数化して分析を行った。また,外部監査人関連のデータ・ベースから監査報酬等の監査人関連のデータを収集し,クライアント企業と監査人との関係を代理すると想定される指標を設定した。
 こうして得られた指標をもとに,まず財務諸表監査研究において多くの先行研究が指摘している監査報酬の多寡が結果として経営者の利益マネジメント行動に影響を及ぼすのか否かという論点に対して検証を行った。当該論点は,特に2000年以降に米国を中心に頻発した会計・監査スキャンダルの影響を受けて,近年国際的に検証が進んでいる研究テーマであるが,わが国のデータを用いた研究は限られた数のものしか存在しないのが現状である。そこでまず,監査報酬と利益マネジメントとの関係について検証を行い,わが国では監査報酬の規模が大きいほど利益マネジメント行動が抑制されないという結果を得ることができた。これは,主に諸外国を対象とした多くの先行研究とも合致する結果であり,わが国でも同様の傾向にあることが確認された。
 次に,コーポレート・ガバナンス研究において主要なテーマである株式所有構造に着目し,これと利益マネジメント行動との関係について確認を行った。わが国においては,かねてから金融機関による取引先企業の株式保有や同じ企業グループ間での持合いと呼ばれる株式保有,また融資関係を通じた企業に対する規律づけ行動などについて多くの先行研究で指摘されているところである。こうしたわが国固有のコーポレート・ガバナンスの仕組みが,経営者の行う利益マネジメントにどのような影響を及ぼすのかという論点について検証を行った。特に,本研究では,金融機関が取引先企業の株式保有および融資関係を通じたモニタリング行動によって,あるいは,そうした金融機関からの監視を企業が意識した結果,経営者による利益マネジメント行動が抑制されている可能性が明らかとなった。これは,わが国を対象としたいくつかの先行研究でも確認されており,先行研究の分析結果を支持するものである。
 こうした財務諸表監査研究とコーポレート・ガバナンス研究の成果を踏まえたうえで,さらに,両者を同一のモデルに組み込んだうえで分析を行った。分析の結果,金融機関による株式保有や融資関係を通じたモニタリング行動が比較的厳しいと想定される企業においては,監査報酬を比較的多く受け取っている監査法人が監査を担当している企業であっても,結果として経営者による利益マネジメントは抑制される傾向にあることが明らかとなった。これは,財務諸表監査研究で多くの先行研究が指摘してきた結果について疑問を提示するものであり,より多様な要因をモデルに組み込んで分析することの必要性を示している。当該研究成果について国際学会で報告した際,フロアからいくつかの質問を受けるとともに,研究上重要なサジェツションも得ることができた。今後当該論文をより精緻化し,学術雑誌への投稿を行っていく予定である。

結果発表
  1.結果発表の時期 2013年8月~2014年12月
  2.結果発表の方法
  (1)アメリカ会計学会年次大会において報告(2013年8月)
  (2)滋賀大学ワーキング・ペーパーへの公表および学術雑誌への投稿を予定
     (2014年4月~12月)



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