経済学部

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現代フランスの雇用政策とりわけ求職者の雇用復帰支援策としての「職業保障付与契約」(CSP)に関する実地調査研究

経済学科 教授 荒井 壽夫
 今日のグローバル経済と財政危機のもとで、あるべき雇用政策として、失業者=求職者に対して失業手当の給付と引き換えに、個人的要求に応じた就労支援(「付き添い支援」)の受容と求職活動さらには必要に応じた適切な職業訓練を義務づけることによって、彼らの迅速な雇用復帰を実現することは急務である。本調査研究は、そうした積極的雇用政策=アクティベーション政策のフランスにおけるこの間の典型的な施策である「職業保障付与契約」(CSP)について、その典型的な適用地域の一つであるルーアン地域においてCSPの契約者を専門に支援する職業安定所の「専門サービス事務所」(A2S)の訪問調査を通じて、その成果と問題点を明らかにしようとしたものである。
 そこで明らかになったCSPの成果は、端的には次の点にある。すなわち、CSPは、普通法の枠組みのもとでの就労支援に比べて職業訓練を受けた者の比率がはるかに高い(4倍近い)こと、それゆえ無期契約での再就職の比率が高いことである。そしてそのような「適切な職」への迅速な復帰を可能にしているのは、「専門サービス事務所」における個別相談員による求職者=CSP契約者への「強化された」=「個人的要求に応じた」付き添い支援の仕組みに他ならない。それは、職業プロジェクトの共同作成、職務遂行能力の総括、希望する企業訪問と短期企業実習、新規免状獲得に向けた職業訓練の実施とその間の定期面接、就職技術の集団研修、企業就職面接、等の支援プロセスである。最大1年間にわたる求職者の以前の賃金総額の8割給付による生活保障のもとでの個別相談員との就労支援と求職活動の緊密な共同行動こそ迅速な雇用復帰を可能にしていることが明らかとなった。フランスにおいてこうした積極的雇用政策の目的とされる「職業行程の保障(セキュリティ)付与」の具体化をここに見出すことは容易であろう。
 他方、CSPの問題点としては、この契約の対象者が「実験的」に「不安定契約者」、日本的に言えば非正規雇用者に拡張されたものの、地域ごとに対象者数が限定されており、ルーアン地域では400人であり、その再就職が達成されれば支援は終了するという点にある。すなわち、非正規雇用者に対する「職業行程の保障付与」を可能にする支援策は依然として限定的である。
 以上のようなフランスの雇用支援策CSPは、従業員規模1000人未満の企業における被解雇対象者または企業倒産の情況にある労働者に対象が限定された施策であるとはいえ、現在のアベノミクスの成長戦略の一環としての「失業なき労働移動支援型」政策の制度設計を考える場合、一つのモデルになりうる仕組みを持っていることは明らかであろう。
 最後に、以上のような貴重な調査研究機会を与えていただいた陵水学術後援基金に心から感謝する次第である。


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