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経済連携協定の投資保護規定と公益のために国家が取る一般的な規制活動との関係についての研究-環太平洋経済連携協定(TPP)の条文構成のあり方を考える

社会システム学科 准教授 坂田 雅夫
 本研究は、環太平洋経済連携(TPP)を巡る議論において、国家が公目的のために取る規制活動が、自由貿易協定などの国際条約により不当に阻害される、という非難が上がっていることに着目し、関係するこれまでの国際条約において条文構成がどうなっているのか、またそれらの国際条約を適用した裁判ではどのような判決が下されていたのかを分析することを目標としていた。
 特に対象としたのは、経済関係の国際条約のなかでも、海外投資保護に関係する諸規定である。海外投資に関する条約規定は、近年まで一般に注目を集めることが少なかった。そのためTPPに対する議論においても、投資保護に関する議論は、そのほとんどが誤った事実に基づいて、現実とは異なる問題指摘や危惧が表明されてきている。
 たとえば投資保護規定が持つ国際裁判手続きへの危惧がある。海外投資に関する条約規定では、客観的な仲裁手続きを定めることが多く、TPPでも裁判手続きが定められる可能性が高い。このような国際的な裁判手続きにたいして、米国の支配下にある裁判制度であり、米国を中心とした欧米、または多国籍企業側に有利な判決しか出ない、という批判が数多く提起されている。しかしながら仲裁という制度は、個別事件において紛争の当事者が仲裁人(つまりは裁判官)を指名する制度であり、偏った判断を下すような人は仲裁人として選定しなければ良い。最もよく利用されている仲裁手続きが、投資紛争解決国際センターといい、このセンターの事務作業を世界銀行グループが担当していることから、裁判そのものが世銀の支配を受けている(ひいては世銀を支配している(!)アメリカの支配下にある)という批判がされているのだが、これは仲裁が個別事件において仲裁人が当事者によって選定される手続きであるという事実を無視したものであって、説得力のある批判とはいえない。
 また別の批判としては、国家が環境や人権保護のためにとる規制活動の結果、多国籍企業が損失を被った場合に、国側に補償(賠償)の支払いが命じられる、というものもある。実際に、仲裁の中には、ゴミ処理場の建設を巡り、安全基準を満たしていないとして、地元市長が処理場の建築許可を出さなかった事例において、国に補償の支払いが命じられたものがあり、環境保護や人権保護のために国が規制することが出来なくなると非難されている。しかしながら、仲裁判例を検討すれば、実際に賠償や補償の支払いを命じられることは比較的少なく、また総じて金額も少ない。さらに命じられた事例を分析すれば、国家側に自国民保護を目的とした差別的対応や、著しく不合理な対応などがあり、その結果として賠償が命じられているものばかりであって、単に多国籍企業の営業を阻害した、という事実だけで国に金銭の支払いが命じられたことはない。
 それではTPPの予想される条文には問題点がないのであろうか。文章が曖昧、もしくは適用上問題を生じうる可能性を否定できない条文は確かに存在している。たとえば「公正かつ衡平な待遇」を約束する規定は、慣習国際法上の外国人待遇に関する最低標準の遵守を約束するだけの規定で、国家がこれまでも慣習法上負っていた義務を条約規定で再確認するだけのもので、新しい義務を定めるものではないと説明されている。しかしながら外国人待遇に関する最低標準はそもそもその内容を巡って国際法学者の間で激しい対立を引き起こしていた概念であって、それを条約規定に導入することには危険性がある。実際の仲裁判例においても、慣習国際法の議論とは距離を置いて、「公正衡平待遇」を解釈するものが多くあり、条約規定が近年の仲裁及び学説上の議論をうまく反映していないと思われる。
 「公正衡平待遇」条項に関する危惧を指摘し、近年の仲裁及び学説を整理して、ありえる条約規定について考察を行った成果を、昨年の日本国際経済法学会において報告した。この報告を基にして今年度の国際経済法年報に論文の寄稿を要請されており、平成26年10月頃刊行予定の「国際経済法年報」で成果を発表する予定である。

結果発表
 1.結果発表の時期 平成26年10月頃

  2.結果発表の方法 『国際経済法年報』第23号



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