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収益認識問題の会計学的検討

会計情報学科  助教授 山田康裕

 アメリカの財務会計基準審議会(Financial Accounting Standards Board: FASB)と国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board: IASB)とが,2002年6月に収益認識基準の再検討に関する共同プロジェクトを立ち上げ,現在まで活発な議論を重ねている。そこでは,収益認識基準として実現稼得過程アプローチにもとづく実現基準を放棄し,資産・負債アプローチにもとづく新たな基準が模索されているのである。
  収益認識基準が実現稼得過程アプローチにもとづくものから資産・負債アプローチにもとづくものへと変更された場合,その含意として,さしあたり以下の2点を指摘できるであろう。
 まず第1には,収益の認識プロセスの変容をあげることができる。実現稼得過程アプローチのもとでの収益認識プロセスは,おおむね2段階のプロセスとして定式化できる。すなわち,まず第1段階においては取引が収支額にもとづいて逐次累積的に記録・分類されていく。そして,こうして記録・分類されたもののなかから,当期の成果に作用するものが実現基準・稼得基準・対応原則などにもとづいて選び出され損益として識別されるのが第2段階である。ところが資産・負債アプローチにもとづいて収益が認識されたならば,このような2段階の認識プロセスは不要となる。すなわち,当該アプローチのもとでは資産または負債が(一方的に)変動した時点で,その変動額に応じて収益(や費用)が認識されるため,この1段階のみで事たりるのである。こうして,収益認識基準の変更にともなって,認識プロセスの段階が2段階から1段階へと減少することになる。しかも,実現稼得過程アプローチのもとではフローが認識された結果ストックの変動が認識されるのに対して,資産・負債アプローチのもとではストックの変動が認識された結果フローが認識されるようになり,フローとストックの認識の因果関係が逆転することになるのである。
 第2には,会計人の自由裁量の変質があげられる。実現稼得過程アプローチに対する批判の主要な点は,会計人の自由裁量の余地,ひいては利益操作の可能性にあった。これに対して資産・負債アプローチは資産や負債といったストックの変動にもとづいて収益を認識するため,より客観的な損益計算が可能になるといわれている。しかしながら,そもそも何をもって資産・負債とみなすのか,またそれをどのように測定するのかに関しては多様な解釈の可能性がある。この点において資産・負債アプローチは,会計人の自由裁量とは無縁のものであるとはいいがたいのである。しかも,実現稼得過程アプローチのもとでの会計人の自由裁量は,現金収支をどのように配分して収益・費用の期間帰属決定をおこなうのかという現金収支に縁取られた自由裁量であるのに対し,資産・負債アプローチのもとでの自由裁量は,資産・負債の認識および測定それ自体という一層根源的な次元での非限定的な自由裁量であるといえるのである。
結果発表
 結果発表の時期: 平成16年9月および平成17年9月ごろ 
 結果発表の方法: 雑誌論文として公表
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