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滋賀大学経済学部附属史料館にゅうすSAM第4号

新営開館記念特別展を振り返って

 史料館では新営開館した昨年11月20日から本年2月16日まで、室町・戦国時代の近江に生きた人々のすがたをテーマとする特別展『惣村の自立と生活』と常設展『近江商人と村のくらし』を開催しました。特別展では館収蔵の重要文化財「菅浦文書」「今堀日吉神社文書」「大嶋・奥津嶋神社文書」の原文書を揃って一挙に公開したため、研究者の間で大きな反響を呼びました。さらに期間中の12月2日には記念講演会も開催し、帝塚山大学教授原田敏丸先生(元当史料館長)に「史料館事業の回顧」、東京大学名誉教授勝俣鎭夫先生に「近江の惣村-菅浦の惣を中心に-」という新営開館に因んだ講演をお願いしました。当日は遠く九州から駆け付けて下さった著名な先生をはじめ、関東方面からも多数の諸先生・研究者のご来会も得て、歴史に興味を持つ多くの熱心な一般市民で五番教室が満員になるほどの大盛況でした。こうした特別展・記念講演会の様子は、新聞・テレビ・ラジオ・公報等でも何度も大きく報じられ、皆さんのお目にもとまったかと思います。折悪しく年末年始をはさみ、例年にない大雪の時期の短期開館(実質開館は一カ月余)でしたが、観覧者が五百名を大幅に越える新記録を達成して、好評のうちに閉幕しました。今後もこうした企画展・常設展の開催を順次、定期的に行ってまいりますので、皆さんの史料館へのご来館、ご利用をお待ちしております。 
(史料館長 小川 功)

ばっくとぅざぱすと その三
貧乏徳利のこと―彦根の骨董屋から―

Back to the pastと聞いてまず思い浮かべるのは、彦根に数多くある骨董屋である。そこには伊万里・瀬戸・湖東・信楽等の古陶磁をはじめ、古裂・刺し子等の布類、近江水屋・箱階段・長火鉢等の箪笥や家具、ランプ・行灯・臼・玩具等の生活品・娯楽品、看板・引札・招き猫や福助等に至るまで、人間活動が過去に産み出してきたありとあらゆるモノ達が、妖しい光を放ちながら未来からの訪問者を待ちうけている。ここにあげた通称貧乏徳利もその一つである。
 明治以降の近代化が進む中で社会は複雑化・流動化し、見知らぬ人との出会いや付き合いは激しさを増していったが、それにつれて社会の潤滑油、ストレス解消の手段としての酒の消費量は急増した。酒はかつてのような、神と融合するハレの日に村人共同で酌み交わすものではなくなっていった。この貧乏徳利は、酒の大衆化が顕著になった明治後期から、瓶詰清酒の大量販売が普及し始める昭和初期頃まで、酒屋から飲み屋や家庭に掛売用として使われていたものである。販売元がわかるように、酒屋の屋号・地名・徳利番号が記されており、写真のものにも ギ ・かせ儀・彦根京町・四五〇番等と達筆で書かれている。
 掛けで売られる安価な庶民向けの酒を扱う故に「貧乏」の二字を冠されたこの徳利も、有田・瀬戸・丹波等の陶磁器生産地に大きな需要=生産増をもたらした。このように生産と消費の連鎖的拡大はその時代の文化や社会状況の変化と密接な関連をもっているのである。そうした時代の生き証人たるモノ達が発する言葉を読み解く作業もまた、歴史研究の尽きせぬ魅力の一つといえよう。
(経済学科 筒井正夫)

きららむし(三)
変体がな

 古文書を読むと時々奇妙な文字に出会うことがあります。普通の学校教育ではお目にかからないものですが、歴史を学ぶ者には避けて通ることができない文字ですから、これはきちんと修学する必要があります。今回はそれらの中から、「変体がな」についてお話しします。
 これは文字通り、「正字」の形が変わったものです。一般的にはひらがなを想像してもらえれば良いのですが、「あ」とか「い」とか、見ればすぐに判断できる文字ではなく、特別な読みをするのが少々やっかいです。しかし、これらは数のうえでは少数なので、すぐにマスターできます。それに、高校の日本史の資料集でも載せられているものもあります。最近は、このような「変体がな」も普通のひらがなに直しているものが増えてきましたが、直接古文書を解読するためには知識として修得しておく必要があります。
 さて、それではどのような例があるのかご紹介しましょう。まず、「者」という文字です。これは、人物を意味する場合は当然「もの」と読みます。時には、「物」の当て字でも使用されます。しかし、助詞で用いられる場合には、「は」と読みます。この「者」という文字が「もの」なのか「は」なのかは、くずし字を見れば推測できるのですが、活字になると「は」とも読むという知識がないと史料を誤読してしまう場合があります。
 現在の史料集でも用いられているその他の例としては、「茂」「而」「江」などがあります。これらはいずれも「も」「て」「え」のことです。「しげる」や「しかして」と読まなければならない文脈もありますが、変体がなとして読まなければならない時もあります。これらもまた、史料の原物をみれば直ぐに判断できます。史料館に来て原文書を手にとって確認されることを期待します。
(企業経営学科 宇佐美英機)