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滋賀大学経済学部附属史料館にゅうすSAM第20号

歴史を見直す

 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。永い人生の途上にある通過儀礼を経て、ここ彦根の地で学びの生活を始められることに、心から歓迎の意を表したく思います。
 今年より滋賀大学も新しい制度のもとで歩み始めることになりました。21世紀の大学がどうあるべきか、明確な指針があるわけではありません。理想と現実の狭間で葛藤することも多いでしょう。このような時代にあるからこそ、私たちは現実の問題を解決するためのヒントを得るために、過去の出来事を学ぶ必要があります。
 今、政治の世界では憲法改定の動きがみられます。そのことの是非は、それぞれの立場で考え、主張すれば良いことです。ただ、憲法がアメリカにより「押しつけられた」ものだから、自主的に改定するのだとする議論は、いささか奇妙ではないでしょうか。敗戦後に占領軍から「押しつけられた」ものは、「農地解放」「財閥解体」もそうでしたし、「民主主義」もそうではなかったのでしょうか。
 しかし、これらが同様に問題にされないところをみると、政治家というのは、自らに都合の良いように歴史を解釈する職業者であることを如実に示しているようです。昨今の動きを見ていると、いとも平易に「歴史観」を持ち出す人ほど、歴史から真摯に学ばない、信用するに足らない人々であるように思えるのです。
 「士魂商才」から「グローバル・スペシャリスト」の養成を建学理念とする経済学部は、現在の課題を解決するために過去から学び、未来に活かすことを重視しています。これから四年間、じっくりと沈思黙考する環境が整えられた、このキャンパスでの学生生活を満喫されますよう祈っています。 
(史料館長 宇佐美英機)

ばっくとぅざぱすと その十四
ディジタルアーカイブへの挑戦

米原湊絵図(北村源十郎家文書)
 最近はパソコンや携帯電話が日常的に使用され、デジタル技術に対する初学者の心理的障壁は低くなってきています。それだけでなく世の中は何でもデジタル化の方向にあるようです。以下にその状況を学生と教官の珍問答で紹介します。
K子:こんにちは、先生。
U子:久しぶりに来てあげたわよ。最近史料館の仕事してるって話だけどついに分野転向したの。不況だと大変よね。
B太:相変わらずご挨拶だね。分野転向はしてません。ニッチ領域でもGISは正統な情報分野ですよ。
K:えーっと、GISって確か地理情報システムのことですよね。図形扱うから画像処理の延長なんですか?
B:そう、地図ベースのシステムだけどデジタル・コンテンツとしてはけっこうお金になる、いやいや行政支援や文化財保護として重要な応用領域なんです
U:あっ、本音が出た。でもGISと史料館どう関係あんの? あそこってお金と縁がなさそうだけど。
B:僕の最初の研究は消防活動用のナビゲーションでした。しかし都市の状況は時間とともに変化するので作成した地図は永久に使用できません。定期的に更新が必要です。一方行政上古い地図も保存されてるから時空間解析ができると特に嬉しい訳です。
K:あー、それでデジタル化して解析をやりやすくしようという訳ですか。
U:それで、その古い地図はどこまで遡るの?
B:消防活動の黎明期からとして、江戸時代まで考慮すれば当然殆どが紙図面です。だからデジタル化は劣化防止に有効ですよね。ところで時空間解析を考えると問題が少々あります。
K:スキャナなんかで入力するのに人件費がかかるってことでしょうか。
B:その点は大丈夫。史料データは国家戦略としてデジタル化が推奨されていて、書類を書けば意外と費用を捻出してくれます。
U:親方日の丸ね。じゃあ、何が問題なの?
B:古地図では縮尺や道路、家屋、ライフライン等の対象データがまちまちで書式が異なってるんです。
K:フォーマットが違うってことですね。そうすると単にデジタル化ではなくて、検索のために規格統一が必要ですね。
B:さすがK子ちゃん、そういうことです。
U:誰が決めるの? みんなで協議しないと道路公団みたいに利権がからんで...、あーだからお金になるから先生そんなことしてんの! 抜け目ないなー。
B:うっ、鋭いとこ突きますね。でもそれはお上の選抜組織が決めるから僕は関与しないよ。それにNSDIPA(国土空間データ基盤)という組織で既に規格済みです。今は操作規格G-XML3.0が話題ですね。
K:デジタル化は右に倣えでやっている様に見えるんですけど。意義を教えて下さい。
B:一つは先に言った解析に役立つ点。今やGISは衛星画像データも範疇にあってマクロな視点で分析できます。例えばローマが何故滅んだか。
U:なんで私に質問すんのよ。
K:奴隷制度の崩壊とか聞いてますが。
B:交易依存のローマにとって港湾は戦略拠点として重要なんだけど、地形変化の進行で徐々に港湾が機能を果たせなくなった。それが衛星画像からわかった。
K:他にデジタル化の利点は何ですか?
B:デジタル・コンテンツにも著作権があり、利用には著作者に敬意を込めて著作権料を払う場合がありますよね。音楽やゲームソフトはいい事例ですね。
U:わかってても払いたくないのよね。人の性かしら。
K:Microsoft社のビル・ゲイツが著作物を買い漁りしてたことと関係ありそうですね。
B:私物については著作料を払わざるを得ないですが、公共のデジタル資料なら大枚叩く必要がないですよね。特に国立大学は貴重な史料を所持しているので、これらを劣化防止も含めて利用可能な書式でデジタル化すると文化貢献になる訳です。
U:でもそういう史料は大学以外もあるし、誰がどこに保管してるかなんてわかんないじゃん。
B:だからデジタル化の後はハイパー・リンク技術で分散している史料を有機的に結合し、新発見の可能性を支援するんです。例えば民家が保持する貴重史料も拝借して関連情報としてデジタル・アーカイブする。
K:滋賀大史料館がセンター的役割をする訳ですね。
U:でも時間かかりそうな上に只働きみたいでちょっと...
B:こういう事業ができる大学こそ伝統と名誉を与えられ、その意味では事業に関わるスタッフは賞賛されますよ。手始めにこの古地図の処理手伝わない?
U:うーん、じゃあやってあげる。でも協力者に私の名前をちゃんと出してね。
(社会システム学科 渡邉凡夫)

史 料 紹 介
琉球貿易図屏風

琉球貿易図屏風(部分)
 今回の春の企画展で展示している琉球貿易図屏風は、昭和三十七年(1962)に彦根市の松居六三郎氏から附属史料館に寄贈されたものです。  琉球王国は、14世紀末から中国(明)と進貢貿易を行って大いに繁栄しました。しかし慶長十四(1609)年に日本の薩摩藩に侵略されて以降は、近世を通じて薩摩藩の支配を受けつつ、明(清)への朝貢国としても存続するという状態に置かれます。  
 この琉球貿易図屏風は、1830年代後半以降~1844年の間に制作されたと推測されています。那覇港に帰ってきた進貢船や、港を行き交うハーリー(爬龍)船・馬艦船や薩摩の大和船、さらに首里城と城下町のひとびとの賑わいが活き活きと描かれており、近世の琉球の風俗を今に伝える貴重な資料と言えるでしょう。  
 さて、附属史料館では収蔵している史資料について、ほかの博物館や出版社・テレビ局などから、特別展示や出版物・番組中で使用したいとの依頼を受けることがしばしばあります。そうした依頼に応じて史資料の実物や写真の貸し出しを行うことは、史資料の公開を進める観点から、史料館の重要な業務のひとつになっています。 中でも最近、貸し出し依頼が多く寄せられているのが琉球貿易図屏風です。沖縄関係のテレビ番組や、高校教科書・資料集また大学入試模試テキストなどに使用されたこともあるので、皆さんもどこかで目にしたことがあるのではないでしょうか。
 史料館収蔵史資料の中でもかなりの「売れっ子」な琉球貿易図屏風ですが、こうした絵画資料は本来きわめてデリケートな扱いが必要で、気をつけないとすぐ紙の変色や絵具の色あせが起きてしまいます。以前は琉球貿易図屏風もだいぶ痛みがひどく、1999年度に大々的な修覆を行いました。現在は文化財保護の立場から、年間での展示日数を合計4週間までに制限しています。
(史料館 青柳周一)