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《ワークショップReD》歴史における「当事者性」について

柏木亨介(重監房資料館学芸員)

石居人也(一橋大学大学院社会学研究科教授)

青柳周一(本学部教授)

阿部安成(本学部教授)

 3月23日のワークショップ実施には3つのきっかけ――(1)本ワークショップReDの前々回(1月25日)の続き(「朴裕河問題」とでもいうべき論点の考察)、(2)本学部刊行物の合評の企画(研究叢書第52号『大島ユリイカ』の書評)、(3)科研費や本学部学術後援基金による連続ディスカッション(ハンセン病史の調査者や研究者との懇話や討話)があり、この混淆ゆえにあれこれ盛り込みすぎたかと企画者として反省。

 発言は、柏木亨介さん、青柳周一さん、石居人也さん、阿部安成の順。著者自身の感想をいうと、柏木さんと青柳さんからはていねいにわたしの著作『大島ユリイカ』を読んだ書評、コメントをいただいたと感謝し、あわせて、お二人からの、読みづらい、図版や表がまったくないとの欠陥の指摘もまた、ありがたくちょうだいした。柏木さんは、いくつもの難点があるわたしの著作に、しかし、そこに籠っている仕組みをきちんと読みほどいたうえでなお、ハンセン病をめぐっていまも「啓発事業」が必要とされる事態において、「ハンセン病者の歴史認識を知りたい」との率直、素朴な市井の願望に対し、「歴史学者阿部安成の研究書であり歴史認識の表出」である著書刊行への「一抹の不安」を表明した。青柳さんも、わたしの議論の根底にある、わかった気にならない、という構えへの共有を示してなお、調査や研究の対象とする、歴史の当事者をその「「生活」に即して具体的に理解し、さらに表現できるのか」という「実践は、ただ単に差別や悲惨を告発してみせるよりも、はるかに困難であるはず」との論点を突きつけた。

 お二人の発言に重なる論点は、歴史をあらわすもの(主体)とその実践にある政治(性)をめぐる自己省察であり、この依然としていまなお課題として掲げられている問いにかかわって、本ワークショップで継続して考えてきた「従軍慰安婦」をめぐる論点は、当事者の生を身勝手に横領せずにどう参照し活用する知恵とくふうをわたしたちが持ち得るのかとの実践につながるのだろうし、配布されたレジュメに引用された二人の民衆思想史家の思索をこれまた依然としてわたしたちは参照せざるを得ないのであり、それは直截にいえば、史料とその読解と、そして論述の次第を整えるという歴史学であれそれ以外の分野であれ、調査や研究におけるあたりまえの態度を省みることとなる。それはまた石居さんがのべた、対象とする当事者に「寄り添い」(わたしはこの言葉が大嫌い――阿部「意にそわない―療養所の歴史を縁どる、過去との綾取り」Working Paper Series No.288、滋賀大学経済学部、2019年6月)つつも、その対象を「突きはな」したり、「突きはな」されたりする「覚悟」や怖れをつねに噛みしめつつ、調査者や研究者はみずからを、ある場で、調査したり研究したりする主体――しかしそれは曖昧で、不定型な生きものかもしれない――へと身構えてゆくとの姿勢につながるのだろう。

(経済学部教員 阿部安成)

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