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《ワークショップReD》「詩はいつもあなたのことを忘れない―詩「そのコ」から、最新作「Girl P 白く溶ける日」まで」+映画上映「ポエトリー アグネスの詩」

ぱくきょんみ(詩人)

 本ワークショップでは、在日韓国人2世の詩人ぱくきょんみ氏を招き、「在日詩人」として日本で生きること、韓国と日本とのふたつの故郷のこと、そして国境を超えたところにある「詩」というものについてご講演いただき、詩を書くことと生きることについての韓国映画「ポエトリー アグネスの詩(うた)」を鑑賞したあと、詩をご朗読いただいた。

 はじめに、学生にむけて、詩がある人生とはどういうものか、語られた。政治犯として投獄された韓国の詩人を例に、この社会にはどんなことがあるかわからない。明日にも、私たちはすべてを奪われるかもしれない。持っているものすべて、お金も、家も、着ているものも、すべて略奪される可能性がある。でも、心に愛する詩があれば、自分を支えてくれる詩があれば、それは誰にも奪われないのです、と静かに語られたぱく氏。若い人に言葉の持つ重要さを伝えたいというぱく氏の想いを、学生も一心に受け取っているようであった。

 上映した韓国映画は、韓国の田舎町で実際に起きた女子中学生レイプ事件をもとに作成された、カンヌ脚本賞受賞作品。認知症だと診断され物忘れがひどくなる60代の女主人公のミジャ、同級生にレイプされつづけ川に身を投げた少女アグネス、出て行った娘にかわり育てていた孫息子ジュンウクと加害者の少年グループのかかわり、ヘルパーとして高齢者の世話をするミジャに介護現場でおこる性暴行。いくつもの「女性」をとりまく問題がからみあうなかで、ミジャは忘れていく自分の人生を、自分が生きた証を書き留めようとするかのように、一篇の詩を書くことに必死になる。どうしても一篇の詩を書きたい、という想いだけが、ミジャを生きさせているかのように。映画の最後で一篇の詩を書き終えたミジャは、いったい、その後どうなったのだろう。

 日韓の関係について、昨今、暗いニュースが多いなか、この映画を見た学生のうち誰ひとり、この映画が韓国映画であるということを問題にしなかった。映画であぶり出された、社会における性の問題、セクハラや性犯罪、老いの問題、アルツハイマーと生きることの不安、農村と都会の経済レベルの差、男女の考え方の違いなどを、文化や言語、国境を越えた問題としてとらえていた。たとえば、「慰安婦」の問題なども、日韓の政治問題としてではなく、人間の尊厳の問題としてアプローチの仕方を変えれば、若者の反応は大きく変わるのではないかと希望がみえる反応であった。

 気がふれたかのように、たった一篇の詩作に執着するミジャの姿を2時間以上にわたり追った後、ぱく氏による詩の朗読がおこなわれた。普段は詩を読んだことなどないであろう学生らが、静まりかえって耳を傾けていた。その姿に、ふと、学生にとって詩人や作家本人を目の前にする機会はさほど多くはないのではないか、ということに気がついた。教員という媒体をはさまずに、詩の生み手本人から直接その声を聞くことが、いかに大きな力を持つことか。

 詩人や映画監督等、作品の作り手に直接会う機会を設けられる本ワークショップシリーズは、学生にとっても有意義であることを確信できた。

(菊地利奈)

講演会の様子
講演会の様子

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