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《ものひと地域研究会》まちづくりと農薬

印鑰智哉 (ジャーナリスト)

 今回のワークショップのタイトルは、「まちづくりと農薬」というあえて耳目を集めるようなものにしてみた。除草剤や殺虫剤が、市街地においても多く利用されている実情については、あまり知られていないからだ。あるいは知っていてもその問題点に気づいていない人も多い。

 講師の印鑰(いんやく)氏はアジア太平洋資料センター(PARC)、Greenpeace、オルター・トレード・ジャパンなどを経て、現在は農薬や遺伝子組換え作物、ゲノム編集食品などの問題を追及するフリーのジャーナリストである。 

 初学者向けにわかりやすくというこちら側のお願いもあり、まずは植物の成長には必要な栄養素や土壌環境(菌根菌糸など)から始まって、化学肥料、除草剤(グリホサートなど)、殺虫剤(ネオニコチノイドなど)が土壌や植物に及ぼす影響など詳しくお話をしてくださった。

 例えば、植物は光合成で作った炭水化物の4割近くを土壌に放出し、それを餌に微生物があつまり、その微生物から今度は植物がミネラルなどを得る共生関係にあるが、化学肥料はその共生関係を壊し、土壌の微生物が不活性化して、土壌の保水力が失われるという。

 作物などの生産の可能な土壌が、世界中でものすごい速度で失われており、このままのペースではあと60年で失われてしまうこと、それ以前にあと30年ほどで土壌の90%以上が劣化してしまうという国連FAOが発表しているという事実にも驚かされた。

 当然ながら除草剤も、除草剤への耐性を付与された遺伝子組換え作物のみが生育することで、生物多様性を奪い、遺伝資源の枯渇や土壌流出にも繋がることが懸念される。それ以外にも、製造元のモンサント社(現在はバイエル社によって買収)に対する巨額の賠償が命じられた裁判に象徴されるように、発がん性の可能性など人体に対する影響も懸念されるところである。

 農薬というと農業の問題あるいは食品における残留農薬の問題と思われがちであるが、公園、道路、保育園、学校、あるいは家庭菜園、庭、お墓なども使用されており、極めて身近な問題であることが再認識された。身近な問題として、海外における研究や規制状況なども参考にして、検討する必要を強く感じた。

(中野 桂)

講演会の様子
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