田中元子(株式会社グランドレベル代表取締役社長)
田中元子氏は、株式会社グランドレベルの代表取締役として、「グランドレベルはまちづくり」というコンセプトのもと、一般の人々と建築の専門家などを繋ぐ「建築コミュニケーター」という仕事をしている。
これまでの「まちづくり」あるいは「地域活性化」は本来の目的を間違えて、地域人口が増えることや、経済が活性化されることを目標としていることが少なくなかった。田中氏は、人口減少は所与とし、そこに暮らす人々が幸せに暮らせることをまちづくりの目的と明確に見据えている。
だから一過性のイベントによる集客ではなく、日常的に地域の人がそれぞれの幸せを追求できるような空間づくりを目指している。田中氏が特に着目したのは、まちの「一階部分(=グランドレベル)」である。そこに、ベンチや屋台など、モノを配置することによって、その目的を達成できることを実証している。
その実践の一つが、「マイパブリック」という取り組みだ。小さな屋台でコーヒーを振舞ってみる。ベンチを一つ置いてみる。花を飾ってみる。地域の人々のこうした取り組みが、線となって、面となって、まちを形づくっていく。
田中氏の活動のキーワードの一つは「能動性」である。地域住民がいかに能動性を発露するのか、そのためにどのような「空間(器)」を作っていくのか。
氏の講演の全てをこの紙幅にまとめることはできないが、理路整然とわかりやすく、かつ情報量も豊富な90分間の講演であった。
講演後、田中氏はSNS上で、彦根市のまちを巡って感じたことを綴ってくれた。人為的に観光目的で再開発された商店街に対比して、昔ながらの寂れた商店街の中に見出される魅力的なお店の数々に注目していた。
彦根城築城410年祭では、自衛隊のブルーインパルスの展示飛行が催された。それを目的に多くの人が集まったが、一過性のイベントは彦根に何を残したのか。田中氏の講演から様々な示唆を得た。
(中野 桂)